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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年9月

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2016.9.27 火曜日 サキの日記 修学旅行2日目 鹿児島

 朝、あかねが私をスケッチしていたので慌てて起きた。


 あんた、寝相悪いから、

 自分で掛け布団吹き飛ばしてたわよ。

 おかげでいい寝姿が描けたけどね。ウフフフフ。


 スケッチブックを奪おうとしてあかねを追いかけ回していたら思いっきり転んだ上に、隣の部屋の伊藤ちゃんに『うるさいんだけど!?』とドアの前で怒られてしまった。あかねめ!

 着替えて朝食に行ったら、ヨギナミが魚を選んでいた。ビュッフェ形式だ。近づいて、昨日大丈夫だった?と聞いてみた。


 え?何が?


 ヨギナミはとぼけた返事をした。

 ほら、スマコンってレズビアンじゃんと言ったら、


 そういうこと、あんまり言わない方がいいと思う。


 と言って、サラダの方に移動してしまった。私は少し反省しながら白いご飯を山盛りにし、サバとサラダとウインナーと、パンもいくつか取った。


 太るわよ。


 あかねが近づいてきて耳元でささやいた。

 それから佐加が来て、


 なんかご飯の友の数多くてすごくね?


 と言って、漬物や煮物をやたらにトレイに乗せ始めた。スマコンは伊藤ちゃんと一緒にご飯を食べていた。男子は藤木しかいなかった。みんなまだ寝てたんだろう。


 今日は鹿児島市内の散策と、『維新ふるさと館』での劇の視聴。この劇がめっちゃ変わっていた。

 人ではなく、ロボットが演じているのだ。

 西郷隆盛のロボットが!

 みんな(特に佐加)がめっちゃ盛り上がって、ロボットが動くたびに爆笑しまくっていた。


 ウケる!う〜け〜る〜!!ヤバハハハハハ!!


 ツボにはまってしまったのか、佐加がものすごい笑い声を上げ続けた。他の客には迷惑だったかもしれないけど、めっちゃ楽しかった。西郷どんのロボットだけがものすごく精巧に、人間のように出来ているのに、他の維新の志士たちはいかにも『人形』って感じで口元がカクカクしていて、


 西郷さんと他の人のクオリティが違いすぎる!!


 と高条が文句を言い、やはりみんな笑った。ロボットの演技や演出にばかり注目しすぎて、肝心の劇の内容を誰も覚えていなかった(と思う)。確か最後、西郷どんが死んだところのナレーションで、ロボ西郷がめっちゃ悲しそうな目元になったのだけは、強く印象に残っている。

 面白かった!

 維新ふるさと館に行くまでの道には、故人の言葉とか、歴史に関する名言が書かれた石や板がたくさんあって、杉浦と高条が熱心に写真や動画におさめていた。この街の人は歴史に誇りを持っているようで、『鹿児島の歴史は日本の歴史』と口々に言う。店の受付の人も、通りがかったおじいさんも、みんな。

 昼食を食べた後、空から灰が降ってきた。みんなで騒ぎながら傘をさして灰をよけたけど、ヨギナミや藤木が『目が痛い』と言い出し、目薬を買いにどこかへ行ってしまった。私も少し目が変な感じになった。灰のせいか。商店街のおばさんがほうきとちりとりで灰を掃いていた。佐加は、


 うちらが雪かきするような感じなのかなあ。


 とつぶやいていた。私達は灰が降る中、砲弾の跡が残る壁や、昔の面影が残る道を見て回った。

 資料館では杉浦が方言の研究にはまりこんで動かず、他の人は疲れてきていて、なんとなく見て回ってから入口あたりで休んでいた。ここでも来たおばさん達に『鹿児島の歴史はすごいでしょう』と言われた。みんな、自分の住んでいる街が好きそうだった。

 駅にお土産を買いに行くとき、修平が『休みたい』と言って先にホテルに戻り、あかねと藤木とスマコンもついて行った。私は佐加たちと一緒にお土産を探した。佐加はまた鯖寿司を買っていた。しかも2つ。たぶん藤木の分だ。もしかして付き合ってんの?と軽く聞いてみたら、


 あれ?知らなかった?

 うちらもう4年付き合ってるよ?


 とさらっと返されてびっくりした。早く言ってよ!


 欲しいものありすぎて困るけどさ〜。うち博多で買い物しまくる予定だから、ここは鯖寿司だけにしとく。


 佐加の中では、旅の中心は博多ショッピングらしい。ヨギナミはさつま揚げを買おうとして、賞味期限をチェックして迷っていた。伊藤ちゃんは芋が大好きらしく、ケーキやタルトを一通り手に持っていた。そんなに買うのって聞いたら『教会で配る』と言われた。やっぱり信者だったのか。

 河合先生が芋焼酎の棚を遠い目で見ていたので、買わないんですかと聞いたら、


 学生と一緒の時に酒はまずいんだよなあ。


 と言っていた。なんか辛そうだったので、みんなで一緒におつまみを探してあげた。


 今日は佐加と同室。あかねがスマコンと同室で、佐加はそれが気になって仕方ないらしい。


 あかねだよ?

 絶対マンガのネタにスマコン使おうとするって!


 と言った。また妄想が始まってしまうであろう。


 サキさ〜、所長に写真送った?

 うちもメール出したんだけど返事ないんだよね〜。

 嫌われてるからさ〜。

 今頃どうしてんのかね、所長もおっさんも。


 佐加が言った。私は所長から『橋本と話した』という内容のメールを受け取っていたので、その話をした。


 敵?おっさんがそう言ったの?敵?無理してね?


 何が無理なんだと聞いたら、


 ほんとはいい人なのに悪ぶるんだよね。

 そういう時代の人なんだと思うよ。


 と。所長もそんなことを言っていたような気がする。『いい所を出さない』って。


 それより明日長崎じゃん?

 うちらは熊本寄るから遅くなるけど、

 カッパ大丈夫かね〜?

 坂道めっちゃきついらしいよ。


 いざとなったらタクシーでも使うんじゃない?


 でもさ〜、せっかく修学旅行なのに別行動になったらちょっとかわいそうじゃね?今日もあんま顔色良くないしさ〜。

 第2グループで大丈夫かな〜。あの4人仲良すぎてさ〜、第3まで気が回らないんじゃないかと思うんだよね〜。


 そう言われても、私はどうしていいかわからない。


 ま、いっか。あんま気使っても嫌がるだろうし。

 熊本でくまモングッズ買ってきてあげる!


 佐加は熊本が楽しみらしい。地震が起きたばかりで、まだ熊本城とかは見れないはずだけど。


 ちょっとヨギナミと伊藤ちゃんとこのぞいてみる?


 2人でヨギナミの部屋に行ったら、伊藤ちゃんと芋タルトを食べていた。私達も2個ずつもらった。


 おいしいから帰るまでになくなりそうで怖い。


 と伊藤ちゃんが言っていた。芋とか栗とかが、昔から好きでたまらないらしい。

 2日目の夜は甘いお菓子と一緒に過ぎていった。



 


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