表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年9月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

514/1131

2016.9.23 金曜日 サキの日記

 とうとう来週は修学旅行だ。みんなそのことしか頭にないようだ。飛行機に乗るのが初めてという人が多く、乗ったことあるんでしょ?あれって落ちない?とか変な質問をされた。落ちてたら私、今ここにいませんって。


 めんべえでしょ?通りもんでしょ?あとさ〜、

 あ〜でも服も買いたいし。


 佐加は博多のお土産を調べていた。買いたいものが多すぎて困ってるらしい。ていうか、買い物のことしか考えてないっぽい。あかねも博多でアニメグッズ探すとか言ってるし。一番真面目なのは第2グループかもしれない。教会とか平和公園とか、そんな話をしているのが聞こえた。

 私達は──もはやグループが崩壊しているので、話し合いにもならない。修平は誰とも黙っていたし、高条は全然関係ない動画の話してる。杉浦は日本の歴史を語りすぎて藤木とヨギナミをうんざりさせていた。


 みんな忘れ物しないようにしろよ〜!

 財布落とすなよ〜。スマホも気をつけろ〜。


 河合先生が呼びかけていた。修学旅行には、保健体育の南先生もついてくるという。


 南先生セクシーな体型だからさ〜、

 かっこいい服着せたいよね〜。


 と佐加が言った。着てきそう、ではなく、着せたいだ。南先生で着せ替えして遊ぶ気だ。

 私は制服で通そうかなと思ってたんだけど、博多だけは私服がいいかなと思って、佐加が誕生日にくれたワンピースと、前にさわのんと一緒に作ったビーズのネックレスを持っていくことにした。さすがに太宰府天満宮は制服の方が良さそうだけど。


 うちらやっぱ熊本にも寄ることにしたさ。


 帰りに佐加が言った。杉浦が、


 夏目漱石の家がどうしても見たくてね。


 と言った。長崎に行く途中で下車し、南先生がついていくという。みんなそれぞれにやることを決めている。私達だけバラバラ。見たいものも行きたい所もない。4日も秋倉を離れる。平岸家とも研究所とも。心配だ。私はすっかりここの環境に慣れてしまっていて、知らない所に行くことに不安を感じ始めていた。





 きっと、生えてる植物が違いすぎて驚くと思うよ。

 北海道とは特に違うから。


 所長が言った。

 一度だけ宮崎に行ったことがあるそうだ。


 それが、地元の元気すぎる人に、海辺に自殺者の水死体が浮かぶ話とかされちゃって、もう怖いイメージしかないんだよね。せっかくリゾートに行ったのに。

 だけど、宮崎神宮の自然はきれいなんだ。歴代の天皇が植えた木々があって。空気も清浄で。


 所長は日本地図を取り出して九州のページを開いた。なんだか、私より、修学旅行に興味がありそうだ。


 うちのグループ、バラバラなんですよ。

 みんな旅行したくないみたいで。


 私はまとまらない第3グループの話をした。他のグループに気を使われて一緒に行動することになったことも。


 それ、一番辛いのは高谷君だろうね。


 所長が言った。


 かわいそうだって言われて、

 みんなに気を使われるのは辛いことだよ。

 僕もそうだったからよくわかる。

 そこに壁が出来てしまうんだよね。

 心から打ち解けられないって言うのかな。

 対等にならないって言うべきかな。

 そういえば、せっかく鹿児島に行くのに、

 屋久島には行かないんだね。


 所長が地図を見ながら言った。


 そうなんですよ。

 2泊も鹿児島なのに、そっちは行かないで、あくまで鹿児島市内の歴史資料館とかを見るんです。

 お勉強に行くんです。

 そういえば、所長は修学旅行どこに行きました?


 フランス。


 えっ?いいなあ。


 良くないよ。

 近くで爆破予告事件があって、危ないから外に出るなって言われて、

 ほとんどホテルから出られないで帰って来たんだから。


 え?じゃあ何も見てないんですか?


 窓から街の景色を写真に撮っただけ。


 え〜!悲しすぎる!


 そんな話をしていたら、上からピアノが聴こえてきた。

 保坂だ。まだいるのか。


 保坂くんのお母さん、

 まだあさみさんを殺したがってるらしいよ。


 所長が言った。その、あさみさんって呼び方がすごく気になる。大丈夫だろうか。私がいない間に何か起こったりしないだろうか。


 サキ君は気にしなくていいよ。

 旅行楽しんできて。


 またなんとなく考えを読まれていた。

 今日、結城さんは下に降りてこなかった。上に行ってみようかと思ったけど、保坂もいるし、やめた。



 平岸家では、子供以上に平岸ママが、旅行の準備にはりきっていた。あれも必要だ、これも持っていけとやたらに荷物を増やそうとして、


 そんなの日曜日に用意すればいいでしょ!

 うるさいわね!


 あかねに怒鳴られていた。

 夕食のとき、修平はほぼ無言で元気がなさそうだった。何かあったの?と一応聞いてみた。義理で。


 別に何もない。そういえば、スマコンが俺の旅行運勝手に占ってさ〜、何て言ったと思う?

『悪魔のカードが出たわ』だよ?ひどくない?


 悪魔。それはヒドい。

 カッパに何の用があって出るんだろう?


 ……その言い方もひどくない?


 部屋に帰ってから、私は学校でもらった持ち物リストに載っているものを集めて、バッグに詰めた。この旅行に何か意味があるんだろうかと思いながら。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ