2015.10.17 サキの日記
所長と電話で長話した。最近、家には自分しかいないのに誰かの気配を感じることがあって、そういうときに限って女性が殺害されたとかむやみに残酷なニュースに流れるし(殺人なんて一切報道しないでほしい。あれは人の悪い方の好奇心と不安を煽るだけで、人間不信と犯罪を増やす手助けにしかなってないと思う)
僕なんかそれ、しょっちゅうだよ。
所長が電話の向こうで笑う。
まわりは人どころか、動物もいない草原なのにね。
でも、誰かが近くにいるような気がする……。
何か言いたそうだったけど、そのあとの言葉は聞けなかった。所長の後ろで誰かが怒鳴る声と、勢いよく走る足音が聞こえたから。
ああ、ごめん。
助手がポット君とケンカしてるから
通話はそこで終わった。半円球のロボットは、相変わらず助手と合わないらしい。
私のやってることって何だろう。
一人でいるのが怖くなったから遠くの知り合いに電話しただけ?
なんか違う。
感覚の合う人があまり近くにいないからか。
バカからも連絡があった。
秋倉の高校に行くのはどう?廃校間近だから入るのは難しくないでしょ。
バカのくせに、高校の難易度をナメすぎてる発言だ。でもそのあと、高校の先生から電話が来たのには驚いた。
河合という、声から判断するに中年の男の先生で、一応資料送ったから暇なときに見て考えてみてと言われた。
暇ならいくらでもある。
でも、バカがこっそり秋倉へ行って、勝手に話を進めていたことがわかった。
気に入らない。
せっかく学校やめたのにまた入れようとしてる。
いやあ、ケッタイなお父さんだなあ。秋倉も変人の町だけど、新橋五月には負けるよ。あのまんまなんだなぁ普段から。
先生はとても面白そうにそう話したあと、形式的な挨拶とともに電話を切った。
うちのバカって一体……。
しかも、学校でそんなに目立ってたら、他の生徒にまた騒がれる。想像するだけで頭が痛くなってきた。
資料は届いてないけど、店どころか家もないような草だらけの町での生活を想像して、今日は終わった。人が少ないぶんしがらみが多そうで、ただでさえ人とうまくやれない私が、そういう町の学校でうまくやっていけるとは思えない。
学校抜きで、いつかの夏休みみたいに過ごせるならいいけど。平岸家でごはん食べて、昼間は所長の所に行くか、草原を散歩して、離れたカフェやコンビニにたまに行って……。




