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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年8月

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2016.8.26 金曜日 松井カフェ


 酒ェ。


 保坂典人が、だらしなくテーブルに伏してつぶやいた。

 松井カフェには平岸パパと奈良のとっつぁんがいて、酔い潰れて帰って来た友人を冷たい目で見つめていた。カウンターからは松井マスターが、3人の様子をうかがっていた。


 何が酒だよ?

 どこでどんだけ飲みやがったんだこの馬鹿が。


 奈良のとっつぁんは怒っていた。隣の平岸パパも、気を静めるためにクッキーをかじっていたものの、表情は険しかった。


 一体今までどこにいたの?


 松井マスターが尋ねながらコーヒーを出したが、保坂典人はコーヒーカップを押しのけた。


 あちこちで飲み歩いていたらしいよ。

 仕事もせずに。もうクビだよ。


 平岸パパは言いながら、2枚目のクッキーに手を出した。


 仕事なんざぁどうでもいい。


 保坂典人が酒臭い息を吐いた。


 どうでも良くねぇだろ?

 奥さん入院したべ?子供だっているべや?

 お前が仕事して稼がなかったらどうすんだ?

 あぁ?


 奈良のとっつぁんが怒鳴った。すると、保坂典人が起き上がった。顔は赤黒く、目はすわっていた。


 なんで俺がそんなことしなきゃいけねえんだよ。


 保坂典人が低い声でうなった。


 なんで俺があんな奴らの面倒を見なきゃいけねえんだよ?


 何を言ってるのよ。


 松井マスターも珍しく声を荒げた。


 それが親の責任でしょうが。

 子供の気持ちを考えなさいよ。

 奥さんの身にもなってみなさいよ。


 お前らこそ俺の身になって考えてみろや、あぁ?


 保坂典人はケンカ腰だった。


 惚れた女と親が勝手に連れてきた女がよ、同じ年に妊娠して子供産みやがって。


 この発言には、その場の全員が呆れた。


 やることやったから出来た子でしょうが。

 何を馬鹿なことを言ってるんですか。


 松井マスターが怒った。しかし、客が入って来たのでその場を離れた。


 あいつらは金目当てだぁ!


 保坂典人が大声で叫んだ。客が一斉に彼を見た。


 お前本当にいい加減にしろや。

 やぶにらみもいいとこだべや。


 奈良のとっつぁんが言った。


 いいや、俺の目は節穴じゃねえんだ。


 保坂典人が焦点の合わない目つきで言った。


 ちゃんとものが見えているとも思えないがなあ。


 平岸パパが呆れ顔でつぶやいた。


 ご立派に偉そうな顔してんじゃねえぞ平岸。

 お前みたいなもてないハゲにはわかんねんだよ。

 2人の女に両側からにらまれる気持ちはな。


 別にわかりたくもないなあ。


 平岸パパはそう言いながら、3枚目のクッキーに手を出した。


 恵は金目当てだ。ブランド物の服を着て、でかい家に住みたかったから俺と結婚したんだ。『金持ちの奥様』っていう肩書がほしかっただけだ。俺は欲しいものを全部与えた。何が不満だって言うんだ?愛?そんなものがこの世にあると思ってる方が間違いってもんだろうが。この歳になれば誰だってわかる。

 歳を取れば取るほど、人生、苦痛が増すんだよ。

 それが世の真理じゃねえか。女どもはいつまでお花畑に住み続けるつもりだ?自分だって鬼のような顔の年寄りになってるっていうのによ。


 保坂典人はゆっくりと立ち上がり、


 あさみに会いに行って来る。


 と言い出したため、奈良のとっつぁんと平岸パパが慌てて止め、無理やり座らせた。


 お前はこれから奥さんがいる病院に行くんだ。

 当たり前だべや。


 奈良のとっつぁんが言い、『車出してくる』と言って外に出た。


 この世は地獄だ。あいつは鬼だ。


 保坂典人は無表情でつぶやいた。


 鬼さんこちらだ。面会なんてクソ喰らえだ。





 

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