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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年8月

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2016.8.25 木曜日 サキの日記

 私達は今日、また同じ夢を見た。

 奈々子さんと小さい頃の所長が、札幌の街をさまよっている。2人には家に帰れない事情があるみたいだ。でも詳しくはわからない。


 今日は木曜なので、所長は、保坂が来るのを緊張しながら待っていた。土曜日にヨギナミの家で起きたことを話そうかどうか、ギリギリまで迷っていたようだ。


 怪我したし、本当は文句を言いたい所なんだけど、

 そもそも、あそこにいたのは僕じゃないしな……。


 所長はなんとなく、話さない方向で考えてくれていたみたいだ。でも、


 母が迷惑をかけてすみません。


 保坂の方からこの話題を振ってきた。

 私も所長も驚いた。


 あの人は、間違いというものを絶対に認めないんです。自分が正しいと思っていること以外は存在しちゃいけないと思ってるんです。でも、世の中で起きることも、親父がすることも全然正しくない。自分の思い通りになんてなるはずがない。でも、それがどうしても認められない。だから病気になったんです。

 今、精神病院にいます。

 しばらく出てこないと思います。


 保坂は淡々と説明した。所長は『大変だね』とつぶやくことしか出来ないみたいだった。私も何も言えなかった。ただ、保坂って大人だなと思った。大人にならざるを得なかった子供なんだろうと思った。


 スマコンに聞いたんですけど、ヨギナミの家にいたのは、所長のゴーストなんだそうですね。

 それって、所長のもう一つの側面みたいなもんですか?


 保坂がそう言い出した。それを聞いた所長は、


 いや!違う!違うよ!

 あれは僕じゃなくて全く別の人なの!


 と慌てて叫んだ。私は保坂に、所長には幽霊が取りついていて、その人がヨギナミのお母さんと仲良くしているんだと説明してみたけど、


 うーん、俺そういうのよくわかんないっす。

 スマコンは霊感が強いから見えるんだべか……?


 保坂は眼鏡に手を当てて考え込んでしまった。そのうち結城さんが『時間だぞ』と言いに来たので、保坂は2階に行った。練習の音が天井から聴こえてきた。


 須磨さん、何を言いふらしてるの!?


 所長が焦って私に尋ねた。


 いや、私もそんな話聞いてませんよ。今初めて知りました。もしかしたら、第2グループは仲良しだから、4人で話したりしてるのかもしれません。


 私がそう言ったら、所長はふらふらとソファーに近づき、そのまま倒れてしまった。





 平岸家に戻ると、見知らぬ奥様達が4、5人玄関に集まって、平岸ママと話をしていた。私が近づくと、何やら慌てた様子で、それじゃあと言ってみんな散って行った。


 あさみの悪口を言いに来たのよ。


 平岸ママは悲しげな顔でそう言って、中に戻って行った。私も一緒に入った。


 あの人達、保坂さんの奥さんが病気になったのはあさみのせいだって言うの。

 でも私は違うと思うわ。

 断じて違うと思うわ。


 夕食のホタテフライはとてもおいしかったのだけど、夕食にはどこか重い雰囲気が漂っていた。修平が、


 伊藤の村ってキリスト教多くて、

 日曜だけ人が多くなるんだって。


 と言った他は、特に何の話題も出なかった。

 帰りにスマコンについて修平に聞いてみたら、


 あいつさ、クラスのみんなにも幽霊のこと知らせるべきだって思ってるらしいんだよね。それで第2グループには話しちゃってるんだって。

 伊藤にもさあ『墓荒らしでもして悪霊を起こしちゃったの?』とか言われたんだって俺。

 俺何も悪いことしてないって。


 そう、私も所長も修平も、悪いことはしていない。

 なぜこんなことになってるんだろう?


 初島が見つかればなあ〜。


 修平はそう言いながら自分の部屋に戻って行った。

 私は部屋で、最近結城さんと話してないなと思っていた。いつになったら奈々子さんのことを教えてくれるんだろう?今でも好きなんだろうか?もし両思いだったら、私はどうしたらいいんだろう?

 心が沈んできた。面白い動画も見つからず、猫の動画を渡り歩いてたらかま猫を思い出した。週末に探しに行こう。でも、もう前期末試験近いから勉強しなきゃな。これからやる。



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