2016.8.17 水曜日 サキの日記
涼くんと伊藤ちゃんがうちに来て班長会議ですって。
あ〜!めんどくさい!
朝食の時、あかねが叫んだ。
俺もそれ出たいんだけど。
お前らで何の話すんの?怖いんだけど。
修平が言ったが、
あんたは班長じゃないし、伊藤ちゃんがいない間はあんたが図書室にいるんでしょ?
と一蹴されていた。カッパの図書室。なんか笑える。
台風のせいで外は雨と風が強い。今日は出かけるのやめたほうがいいかなと思った。こんな天気の中を、班長たちは平岸家まで来て、何の話をするのだろう?
部屋でぼーっとBBCを聴いて、数学に手を出して数分で飽きて、世界史の問題集をやって、アンビリーバーズ一曲リピートしながらヤフオクやアマゾンで古本をあさっていたら昼になった。
昼食に杉浦と伊藤ちゃんがいた。
すごい。毎日こんなきちんとしたランチが出るの?
伊藤ちゃんは平岸家のランチ定食が気に入ったようだ。
最近ずっと図書室でおにぎりばっかり食べてたし、家だと昼はラーメンか蕎麦かうどんって決まってるんだよね。
普通の家はそんなものだよ。
うちも大して変わらない。
杉浦がしゃべると全部上から目線に聞こえる。なぜだろう。態度がでかいからか。
半分くらい食べてから、班長で何を話してたの?と聞いてみた。
第3グループは修学旅行に行かないって、あたしは言ったのよ。
あかねが無表情で言った。
もちろんそんな話は認められない。
杉浦があかねをにらんだ。
高谷の体調に不安があるから行かないって平岸さんは言うの。杉浦は『第1と第2のどちらかのグループが一緒に行動して、誰かが対応できるようにしたらいい』って。私もその意見に賛成。
伊藤ちゃんが言った。
そんなめんどくさいことする必要ないわよ。
うちのグループはみんな行きたくないんだから。
あかねが言ったので私は慌てた。
ちょっと待って。
私は行きたくないなんて言ってない。
私が言うと、あかねが怖い目で私を見た。
たぶん高谷は気を遣われるのを嫌がると思う。
伊藤ちゃんが言った。
だけど、現実的に考えて、万が一の時を考えておく必要はある。
あのね、高谷はあれでも体力をつけようと努力してるの。毎日少しずつ何かをやって。
まだ修学旅行まで1ヶ月ある。
調子を整えれば行けると思う。
僕も同意見だ。第3だけ行かないなんてありえない。高条だって昨日高谷を心配して我々に相談して来たんだ。
あかねさん。行きたくないのは君だけだ。
杉浦が腕を組みながら言った。
じゃ、あたしは行かない。
せいぜいみんなで楽しめば?
あかねが言った。平岸ママが『やめなさい。そんなことを言うのは』と注意したが、
だって考えてもみなさいよ。7万よ?
7万円あったら同人誌が何冊買えると思う?
アニメやマンガがどれだけ見れると思う?
優れた作品にお金を使うほうが、人生のためになるに決まってるじゃない。
なんでジジイどもの好きな古い寺やら何やらを見るのにそんな大金使わなきゃいけないのよ?
それは聞き捨てならないな!
君は歴史の大切さを理解していない!
杉浦のスイッチが入ってしまった。
いいかい、君が大好きなマンガやアニメはどこで生まれたと思う?
日本だよ。
その日本はどうやって出来たと思う?
それがわからないで、現代の文化が理解できると思っているのかい?
同人誌作るのに古い寺なんか見る必要ないでしょ?
行き先がヨーロッパだったら良かったのに。
伯爵の甘い罠に落ちる執事とかね。
何を言っているんだ、あかねさん。
しばらくこんな、真面目なのかアホみたいなのかわからない言い合いが続いた。しかし、伊藤ちゃんが突然テーブルをバン!と叩いて立ち上がり、
いいかげんにしなさい!秋倉の変人ども!!
と、ものすごい声で怒鳴った。
伝説の図書委員長がとうとう怒り出したのだ。
修学旅行は学校の授業の一部です!
代金をアニメに使いたいだの、自分の趣味の歴史や文学に走りたいだの、そんなのは全部論外です!
私達は勉強と相互交流のために修学旅行をするんです!
わかりましたか?
最後の『わかりましたか?』のゆっくりしたタメの効いた言い方と、伊藤ちゃんのにらみ方がものすごく怖かったので、みんな反論出来なかった。平岸ママは感心して軽く手をたたいてコミカルに笑っていた。平岸パパは新聞に隠れていた。
じゃ、決まりね。
第1か第2のどちらかが第3グループと一緒に行動する。
鹿児島は第1、長崎は第2でどう?
たぶん、博多は太宰府天満宮だから、全員一緒でしょ?
行ってから決めてもいいし。
全て、委員長が勝手に決めて終わった。
夕食のときカッパにこの話をしたら、やっぱり嫌がっていた。でも、
伊藤が怒るところ、俺も見たかったな〜!
あいつ図書室だと『私語厳禁』って言ってほとんどしゃべらないんだよな〜。
と言った。
それ、遠回しに嫌がられてるだけだと思う。
伊藤ちゃん、なんでこんなのを図書委員にしたんだろう?




