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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年7月

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2016.7.27 水曜日 サキの日記 

 市場のバイトが始まった。かわいらしい杉浦のママが運転する大きな車に乗り込んで、私、佐加、杉浦、藤木、奈良崎、保坂、高条の7人は、大きな倉庫に運ばれていった。

 男子はトラックに荷物を積む。女子はじゃがいもやたまねぎの袋詰め。本当に、たまねぎをひたすら4つずつ袋に入れていくだけの仕事だった。でもみんなスピードが違う。ベテランのおばさんはめっちゃ高速で何でもやる。私と佐加は、最初、見るからに遅かった。終わり頃には少しだけ早くできるようになっていたけど。

 学生は私達くらいで、あとは年配の人が多かった。昼休みに話してわかったけど、道外から来ている季節労働者も多かった。夏はこっちで働いて、冬は沖縄のコールセンターに行くというすごい人もいた。


 接客とコールセンターできれば、

 どこにでも仕事ありますよ。


 とその人は言った。私は接客も電話も苦手だ。どこにでも行ける人にはなれそうにない。


 ねえ、サキ。

 さっき仕事説明してたおじさんやらしくね?


 お弁当を食べているときに佐加が言った。


 うちらにはめっちゃ丁寧にニコニコしながら説明してたのにさ、おばさんとかおばあさんには初めて来てもなんか勝手にやればみたいな感じでさ。若い子にだけ親切なタイプじゃね?やらしい。


 私は全然気づかなかった。ただの親切なおじさんかと思っていた。


 あ〜そうだ!8月2日はヨギナミの誕生日だから!!

 何か用意しといて。

 当日は平岸ママがはりきってケーキ作ってくれるさ。

 めっちゃごちそう出るさ。


 めっちゃごちそう。また作りすぎが始まってしまうのか。それにしても最近誕生日多いな。もしかしてクラス全員にプレゼント用意しないといけないのか?顔見知りが多いとこういうのがめんどくさいかもしれない。ヨギナミには何をあげればいいのか聞いたら、佐加はこう言った。


 服とアクセサリーに決まってるじゃん。自分で買えないからいっつも同じカットソーとかフリマのシャツとか着てるし。かわいそうだから、ユニクロとかでいいから新しいやつ買って。サイズはSだからそんなに困らないし。あたし、かわいいブラにする。


 待て、インナーは待て!と言ってみたが『大丈夫、去年もあげたし』と平気で返された。私は自分の誕生日も近いのだけど、もう黙っててスルーしてもらおうかなと考えた。でもたぶん、平岸ママ→あかね→全員の順でバレるに違いない。町は小さい。

 

 午後、佐加がやらしいと言った責任者っぽいおじさんが来て、私達に、


 秋倉高校はどう?懐かしいなあ。なくなっちゃうなんて残念だなあ。昔は学校の横に売店があってさ、駄菓子が売ってたんだよね。よくみんなでたむろしていたなあ。


 と、自分が通っていた頃の思い出話をして、作業の邪魔をして帰っていった。


 あいつウザくね?


 佐加が小声で言いながら、玉ねぎを投げる真似をした。近くのおばさん達がクスッと笑ったような気がしたけど、気のせいかもしれない。私は、秋倉高校が自分たちの卒業と同時に廃校になるということを思い出した。でも、実際にそれがどういうことなのか、なんとなく想像しにくかった。現に通っている今では、それはありえないことのように感じられる。でも、本当に廃校になるのだ。それは前から決まっていたことだ。

 初バイトは3時頃終わった。思ったよりもあっさり出来た。でも、5時間続けて同じことばかりしてると飽きる。これがあと6日くらいあるのか。でも、やるしかない。


 疲れたので帰ってすぐ寝てたら、またあかねが『夕飯!!』と怒鳴り込んできた。マグロとサーモンのお刺身が出た。平岸パパが、


 あそこの市場は荒っぽい親父が多いけど大丈夫?


 と聞いてきた。やらしいおじさんの話をしたら、


 まあ、若い女の子には誰だってそうなるよ。

 おっさんは特にね。


 と笑われ、平岸ママが顔をしかめた。あかねはひたすら黙っていた。修平も今日は一言もしゃべらなかった。また具合が悪かったんだろうか。



 


 

 



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