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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年7月

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2016.7.24 日曜日 サキの日記

 朝から日差しがキラキラと輝いていた。所長の散歩日和だ。ちょっと早いかなと思ったけど、朝ごはんを食べてすぐ研究所へ行ってみた。たぶん8時前だったと思う。なのに、林の道でもうピアノの音が聴こえていて、ひどいと思った。

 曲はラヴェルの『クープランの墓』。

 またこの曲だ。

 私は玄関の前で立ち止まった。急に意識が遠のいた。


 サキ君!


 所長がいつのまにか目の前にいた。


 今、一瞬だけど、奈々子さんが見えた。


 所長が心配そうに言った。私はあたりを見回したけど誰もいなかった。後ろからポット君が近づいてきた。2人と1台で一緒に外を歩いて、畑を一周した。


 山に行きたいなあ。でも、熊が出るんだ……。


 所長は遠くの山を見て目を細めた。

 私はさっき出かかったという『奈々子さん』と、結城さんが弾く『クープランの墓』のことを考えていた。この曲の、特にトッカータを聞くと、すごく懐かしい感じがして、前も意識が飛んだことがあった。結城さんとこの曲と奈々子さんには、何か関係があるんじゃないだろうか。その曲を未だに弾き続けているのは、やっぱり結城さんが彼女を……。

 心が重たくなっていくのを感じた。

 こんなのは久しぶりだ。

 私の顔色を察したのか、所長はいつもより早めに『帰ろう』と言い出した。研究所では、結城さんが1階にいて、古い映画を見ていた。『オペラハット』という映画を。


 この映画に出てくる奴のバカにされっぷりが、

 久方っぽいだよなあ。

 こんなにかっこよくないけどな。


 と結城さんは画面のゲイリー・クーパーを見ながらつぶやき、所長はものすごく嫌な顔をしていた。DVDなので貸してと言ったら、


 やめといたほうがいいよ。


 と言われた。

 珍しい。

 所長が私の見たいものを貸してくれないなんて。

 気になったのであとで調べたら、主人公は純粋すぎて都会のみんなにバカにされ、田舎の老婦人にまで『妖精つき』と呼ばれている(ただし、その老婦人たちは誰のこともそう言う)という話らしい。

 私も前、所長のことを森の妖精なんじゃないかと思ったことがあった。だから反省した。本人はきっと、そういうことを言われるのが嫌だったのだ。

 でもなんで、結城さんは今日あの映画を見ていたんだろう?しかもわざわざ所長が傷つくようなことを言って。

 すごく気になる。



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