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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年7月

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2016.7.19 火曜日 サキの日記

 佐加にバレないよう、平岸家に帰ってから、ヨギナミと一緒に平岸パパの車に乗った。天気は雨。出かけるのに向いているとは言えない天候。でも室内だから大丈夫。ただ、雨が車に当たる音がけっこう大きくて怖い。こんな日でも所長は外に出ちゃうんだろうかと思いながら車に乗っていた。ヨギナミは、


 あそこに行くのすごく久しぶり。2年くらいかなあ。


 と言った。すると平岸パパが陽気に笑いながらこう言った。


 いやあ、そんなになるか。

 行きたかったらいつでも言ってくれれば車は出すよ?


 ありがとうございます。

 でも、買い物するお金がないんですよねえ。


 そうかぁ〜。


 切ない沈黙が流れた。そんなお金のないヨギナミだけど、今日は平岸家に着くとすぐ、私に郵便局の封筒を渡した。中には千円札2枚と500円玉が入っていた。5000円全額出してあげるつもりだった私は逆に戸惑った。もしかしたら、無意識に失礼なことをしかけていたのかもしれない。ヨギナミは本当に真面目なのだ。

 叩きつける雨の中、車はショッピングモールの屋内駐車場に入った。こういう所に来るたびに思うのだけれど、どうして駐車場はどこもコンクリートや金属むき出しで冷たいんだろう。店の中がいくらキラキラして楽しそうでも、買い物が終わったら暗くどんよりした洞窟みたいな所に戻らなきゃ車に乗れない。せめて、店内と同じ楽しい雰囲気だけでも出してくれたらいいのに。そういう駐車場、私は今のところ、東京でも北海道でも見たことがない。

 暗いコンクリート空間を抜けると、そこは夏の明るい浴衣売り場だった。佐加って夏の物なら何でも似合いそうだなと思って、まず浴衣を物色した。ひまわり柄のがかわいくて、自分で欲しかったくらいなんだけど、


 佐加ってテーラーの子だから、

 布地とか縫製はけっこう厳しく見るよ?


 とヨギナミに言われてしまった。それ、ショッピングモールで5000円以内ではつらい条件なんじゃないだろうかと思った。それにしても、テーラーの家だったのか。服作るのが好きなのは知ってたけど。


 もしかしたら、服より、布地とかの方が喜ぶかもね。


 とヨギナミが言ったので、手芸店に向かった。


 母さんがよく来る所だよ、ここは。


 と平岸パパが言って、ママに欲しいものがないか連絡し始めた。それからしばらく私達は店内で、キラキラしたボタンやアクセサリーパーツに夢中になってしまい、しばらく佐加のことを忘れていた。

 なかなかプレゼントが決まらないので、夕食を先に食べることになった。ヨギナミはお母さんのことを気にしていたが、平岸パパは、


 それは母さんが抜かりなく手配しているからね。


 と言って笑った。そこでヨギナミに聞いた話だと、平岸ママとヨギナミのお母さんは、小学校から高校までずっと一緒の親友だったそうだ。それで、平岸ママは今でも、作りすぎた料理を持って頻繁にヨギナミの家に出現するという。

 私達はパパの希望でもつ鍋の店に入り、あごだしの美味しさに溺れた。本当に、食べたことのない味だった。


 このだし、高いのかなあ、高いよね?


 ヨギナミが何度も言った。もしかして、持って帰りたかったのだろうか。

 佐加へのプレゼントは北欧風の花柄の生地4mに決まった。ワンピースを作るのに3m以上はいるとヨギナミが言ったからだ。佐加に花柄で大丈夫なのかと思ったけど、


 けっこう好きだと思うよ?よく着てるし。


 とヨギナミは言う。そういえば、佐加の私服ってあまり見たことがないなと思った。学校以外で会ってないからだ、きっと。


 佐加は毎年誕生日にお泊り会するから、今年はサキも呼ばれるかもしれないよ?パジャマ買っておいたら?


 ヨギナミは来ないの?


 あかねが嫌がる。


 ヨギナミはちょっと辛そうな笑い方をした。あかねが嫌がる?どういうことだろう?よくわからなかったけど、話の流れでパジャマ売り場を見に行った。でも、あまり好きなデザインはなかった。私はシンプルな無地が欲しかったんだけど、売り場にはチェックとか、それこそ花柄のフリルとか、部屋着みたいなものしかなかった。

 平岸パパが、


 お母さんにお土産買っていくかい?


 と尋ねたが、ヨギナミは、


 いいえ、結構です。


 と答えた。その時の言い方が冷たくて、あれ?と思った。私は所長と結城さんのために、猫耳のついたまんじゅうを買った。色も形もかま猫に似ているような気がして、つい手が伸びてしまったのだ。

 帰りの車でヨギナミが、


 帰りたくないなあ。


 とつぶやいた。理由はわかりすぎて聞く気もしなかった。昨日さんざん聞いたように、お母さんは今日も機嫌が悪いのだろう。

 プレゼントは私が預かることにした。



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