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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年7月

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404/1131

2016.7.9 1998年


 創成川沿いの真っ直ぐなフェンス。

 神崎奈々子はそこに軽く手をかけて、景色を眺めていた。向こう岸には市場がある。観光客向けの、やや高めの所だ。

 足元には小さな男の子が座っている。目つきがぼんやりしていて、立ち上がる元気もなさそうだ。

「今日、何か食べさせてもらった?」

 奈々子は向こう岸を見つめながら尋ねた。返事はない。

「やっぱり何もくれないんでしょ、あの人」

 やはり返事はない。

「私もおなかすいたし」

 奈々子は革財布の中身を探った。フリーマーケットで安く見つけた年齢不相応な本物だ。中身は千円札一枚と、500円玉。10円玉が少し。

「マクドナルドでも行こっか」

 奈々子はゆっくりと歩き始めた。男の子は慌てて立ち上がると、よろけながらついてきた。

「食べたら、修二のギターを聞きに行こうね」

 奈々子は前を向いたまま、出来るだけ優しい声で言った。


 この子の顔を見るのが怖い。

 あまりにも空っぽで。

 何にも表していなくて。

 でも、ほっとくわけにはいかない。


 奈々子は狸小路に向かって歩き始めた。彼女はよく、夕方に部屋の窓から抜け出して、大通りまで来ていた。家はビルの1階にあったので、抜け出すのは簡単だった。


 夜の空気。

 そう、札幌の夜の空気。


 奈々子はそれが好きだった。

 静けさと騒々しさ。

 深淵と軽薄さ。

 人気のない道の、

 何かが潜んでいるような闇の気配。


 そんなことを考えていたら、うっかり『創くん』のことを忘れそうになった。

 立ち止まって振り返ると、足元にその子はいた。

 歩いていたので急に止まった奈々子にぶつかった。

 少しだけ、表情が驚いたように動いた。

 奈々子はそれを見て、少しだけ安心した。





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