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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年6月

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2016.6.30 木曜日 サキの日記

 6月も今日で終わる。気温は28度。やっぱり東京よりも暑い。太陽が私を追いかけて来たのだろうか。

 内田樹の本が読みたいと思っていたら、おすすめコーナーに『街場の文体論』があった。前に借りた本から予測されたんだろう。同じ著者だから別に不思議ではない。今日はすぐに借りて、図書室で少し読んでから帰った。

 内容は大学の授業録だけど、一回目で作文の試験が出され、それに通らないと受講できないようにしたそうだ。希望人数が多くて。たぶん私がこの試験を受けても通らなかっただろう。私は、思ったことをここにそのまま書くのは好きだけど、人に見せるようなちゃんとした文章を書く自信はまだない。この本に出てくる『情理を尽くして語る』が何なのかも、もちろん言葉ではわかるが、実感としてわからない。読み進めると難しい、厳しい話が多くて、自分の文章なんて大したことなかったなと思い知らされる。もう書くのやめようかなと、頭の隅で思う。

 でも、書きたい。

『お前にはできない』と言われるとかえってやりたくなる。そんな感じだ。

 でも、何を書けばいいのだろう?

 小説?シナリオ?エッセイ?

 いろんなジャンルを想定して頭の中で文章を考えていた時、スマホが振動した。ヨギナミからメールが来ていた。


 今、おっさんが家にいる。


 と書いてあった。


 所長は何かを思い出そうとしたみたい。

 でも、ダメだったって。


 何かって何?と聞いたら、わからないと返事が来た。それだけ伝えられても私は困るんだけど。何を思ってヨギナミはいきなりメールを送ってきたんだろう?

 思い出そうとしたって、昔のことだろうか。

 修平は幽霊を払う方法が知りたいと言った。本当にその方法、所長の母親は知っているんだろうか?それに、所長が死ぬほど辛い過去を思い出したところで、母親の今現在の居場所なんてわかるはずがない。それは別に調べることであって、何も知らない所長に辛い思いをさせることはないはずだ。

 佐加とヨギナミは幽霊と仲が良すぎて、所長の辛さをわかってないのではないか。

 あまり噂しないでほしいって言った方がいいかな。

 言ったところで、あの佐加がやめるとは思えないけど。



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