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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年6月

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2016.6.27 月曜日 サキの日記

 図書室のおすすめコーナーに「本当の大人の作法」という対談本があった。またしても借りようかどうか本棚をさまよいながら迷った。すぐに手に取ってカウンターに出すのはなんか悔しい。

 でも結局借りた。

 本を差し出した瞬間の、伊藤ちゃんのドヤ感に満ちた笑みが忘れられない。

 やはり好みを読まれてる。でも、どうやって判断してるんだろう?話す内容?私は、伝説の図書委員長が好みを監視するクラスに属しているのか?


 俺、いっつも哲学の本勧められるんだよね。

 なんでだろーね。


 と奈良崎は言っていた。佐加はファッションの本、ヨギナミは『10分でできるおかずの本』を勧められたという。もう意味がわからない。


 さっきの本で気になったのは『『愛』の反対語は『敬意』』という章。

 他人との同一化を愛と勘違いしている人が多いとのこと。例として、ヤンキーとか、ファン同士のあれこれが語られていた。

 愛が、色々なもめ事を引き起こす。

 愛はいけない、必要なのは敬意だ。相手をよく知らないということ、理解しようとすること。

 なんだか、今の私に対する警告のように思えてきた。もちろん私は結城さんと同一化しようなんて考えていない。たぶん、恋はしてる。でも相手をよく知らない。

 恋は愛なのか、敬意なのか。

 どちらにも転びそうな気がする。


 せっかく天気が良いので、所長は散歩に行くだろうなと思った。研究所に行ってみたら、やっぱりもういなかった。ピアノの音が天井から聴こえたけど、クラシックではない曲のようだった。何だろう?ジャズ?ポピュラー?

 私はカウンター席でその音を1時間くらい聞いてから、平岸家に戻った。


 高条がコーヒーの入れ方と接客習いに来ないかって。

 学校祭の準備で。来る?


 夕食の時に修平に聞かれた。あかねの目がキラリと光った。


 美形カフェマスターにコーヒーのいれ方を教わる少年。しかしある日、手をつかまれて床に押し倒されて初めての快楽を知り、それから2人は毎日のように互いの体を求め合うのよ……ウフフフフ。


 あかねが口から妄想を発し、修平がお皿を持ってテレビの間に逃げていった。平岸パパが『そういうネタを食事時に話すのはやめろと言っただろう』と怒り、平岸ママも加わって説教が始まった。私はそっと、やっぱりお皿を持ってテレビの間に移動した。修平はニュースを見ていた。


 おかしいだろあれ、俺らが食事中にエロ動画の話するようなもんだろあれ。


 修平は本当に嫌そうに言った。私は、カフェに行く日時をまだ聞いていないと言った。


 水曜の帰りにカフェでどうって話なんだけど。


 私はそれでいいと言った。今日、一日中、高条がこっちをちらちら見ているような気がしたけど、これが原因だったのか。少し安心した。食卓からは親子で言い争う、いや、あかねがひたすら怒鳴り散らす声が聞こえていた。


 そういやサキ、もう調子大丈夫?


 倒れてからもう何日も経っているのにまた聞かれた。


 スマコンがさ〜、霊感強いんだって。

 俺の幽霊も見えるんだって。

 サキも一回見てもらったらいいんじゃない?


 そう言ってから、修平はテレビに向き直った。私はお皿を片付けにキッチンへ行き、親子ゲンカを聞きながら洗って、部屋に戻ってまた『本当の大人の作法』を読んだ。ネット上で上げ足を取る人のことが書いてあって、前の学校の人たちがSNSに流した劇団のデマを思い出した。

 なぜ、あの人たちは、あんなことをしたのだろう。

 私の境遇(母が女優、父が劇団員)は嫉妬されるようなものだろうか?それとも、単なる偶然でターゲットにされたのか。

 考えてもわからない。自分は絶対あんなことしないでおこう。そう思うだけだ。前の学校に未練はない。たとえあっちのほうがレベルが高くて進学に有利だとしても。もっと大事なことが世の中にはたくさんある。

 例えば、身の安全とか。

 精神崩壊防止とか。


 明日は所長と結城さんに会えるといいな。



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