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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年6月

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2016.6.23 木曜日 サキの日記

 保坂はけっこうピアノが上手だ。ショパンの練習曲を止まらずに弾く。少しぎこちない感じがするけど、聴ける演奏だと思った。でも、結城さんの音には全然かなわない。天井から聴こえてくる音にじっと耳を澄ませていると、どちらが弾いているかすぐ判別できる。それくらい違う。


 こうやって比べて聞いてると、あいつ一応プロなんだなって思うね。褒める気にはならないけど。


 所長がビスケットを開けながら天井を見て言った。

 ピアノの練習を聞きながら所長と話をした。



 昼休みに佐加が、


 所長とおっさん、仲良くできないのかな〜?

 カッパはできてるんだよね〜。


 と言って、少し離れた席にいる修平を見た。修平は高条とお弁当を食べていて、こちらに気づいて軽く手を振った。でも、話には入って来なかった。


 いい人なんだよね、おっさん。

 すごく親切でさ〜、何度も助けてくれたもんね。

 ねえ?ヨギナミ。


 ヨギナミは黙ってうなずいた。この二人はどちらかというと、所長より『おっさん』の方が気になっているようだった。私は、その人は本来いてはいけない人なんだから、出てきてほしくないと言った。ヨギナミと佐加は顔を見合わせた。困ってしまったようだ。その後は会話が弾まなかった。


 所長にその話をしたら、やはり『そんなの無理だよ』の一言で話題を変えられてしまった。今日、所長が気にしているのは2階のピアノ教室と、その教師がなぜ、ピアニストをやめてここにいるのかだ。


 何か企んで来たのかなとも思ったけど、

 奴にはメリットがないよね。ここで僕と一緒にいても。

 給料は出るけど。


 純粋に心配してるんじゃないですか?もう金の問題じゃないって、前に言ってましたよ。


 それはそれで気持ち悪いよ。


 その後、二人でオペラ『椿姫』のDVDを、ヘッドホンを使って見た。所長は私の分のイヤホンと、2つつなげるコネクターを用意してくれていた。それから、『なぜ他に音楽はたくさんあるのに、クラシックだけ特別なのか』という話をしていた。たぶん、心の深いところまで行こうとするのがクラシックだけだからじゃないかと所長は言った。私は、JPOPや洋楽にもそこを目指しているアーティストはいくらでもいますよと言った。所長はSTINGを思い出し、私は米津玄師のアンビリーバーズの話をした。ラブソングは好きになれないけど、私はこの曲がものすごく好きだ。

 二人で話しているうちに時間を忘れてしまった。またあかねが『夕飯!』と怒鳴りこんできた。



 サキったら、所長と一緒にいると時間を忘れてしまうのね。どう見てもラブラブ彼氏彼女じゃないの!ヘッドホンで同じ映画を見てるなんてねぇ。


 夕食の時にあかねにさんざんラブラブ妄想を語られた。映画じゃなくてオペラですと言ったところで無駄だ。


 ラブラブって死語だと思うけどなあ。


 修平が小さな声でつぶやいた。それからこっちを向いて、


 そういうの、やめたほうがいいよ。

 相手は男だよ?誤解するって。


 と言って私を怒らせた。平岸夫妻は何も言わなかった。


 今日も結城さんに会えなかった。

 やっぱり私もピアノ習いたいって言ってみようかな。でも、すごくわざとくさい、見え見えの手のような気がする。


 現代文の試験は97点だった。国語系は昔から得意だ。問題文を読めばすぐに答えがわかる。でも、そんな予想が出来たところでなんの役にも立たない。英語は83点で、ピリオドの打ち忘れでけっこう減点された。まだ返ってきていない数学が怖い。

 クラスのネット掲示板に、伊藤ちゃんからの書き込みがあった。

『テストが終わったし、読書しませんか?』

 私宛に、ニコラス・スパークスの恋愛小説を勧めるメッセージが入ってて嫌になってきた。このお勧めメッセージ、全員に行ってるのか気になって佐加に聞いてみた。


 全員に違う本勧めんだよ。すごくね?

 うちのとこ、1920年代のファッションの本来たさ!

 わざわざ英語の本入荷してくれたらしいから、

 読まなきゃな〜。


 なんという精度の高さ、

 というより、予算の好き勝手な使い方……。

 他の人には何を勧めたのかすごく気になる。明日、話せそうな人に聞いてみよう。自分に勧められた本は読む気がしないので、伊藤ちゃんには『恋愛小説は読みたくないです』と返事しておいた。



 

 

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