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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年6月

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2016.6.13 月曜日 サキの日記

 ずーっと雨。草原が暗い。一人で歩いているとけっこう怖い。人がいる街の中を歩くのとは全然違う。意識してなかったけど、まわりに建物があって人がいるという安心感に、知らないうちに支えられていたみたいだ。ここにはそれがない。学校までの大半が、人の住んでいない草原の道だ。こういう暗い雨の日には、足元が浮くような不安と、雨の重さが二重にのしかかってくる。

 けど、佐加やヨギナミにそういう話をすると、よくわかんね、みたいな反応。昔から住んでいる人は慣れているんだろう。


 河合先生が、


 もうすぐ試験だぞ〜、忘れるな〜!


 と朝礼の終わりに言った。奈良崎が、


 これから毎日『忘れるな〜!』って言い続けるよ。


 と教えてくれた。笑ってしまった。



 帰り、暗い林の中を傘をさして歩いていたら、所長が玄関から出てくるところだった。また結城さんがピアノを弾いていて、今日はラヴェルだと言っていた。結城さんはラヴェルが好きで、リストと同じ頻度でよく弾いているそうだ。

 この雨の中でも散歩するんですかと聞いたら、


 中でピアノの洪水が起きてるもの。

 音に飲まれる前に逃げなきゃ。


 所長もあの音には飲まれる感じがするんだなと思った。それから、アジサイが植えてある場所に行って、カタツムリを数匹発見した。あと、雨粒がきれいに粒になって見える葉をいくつか見せてくれたんだけど、花の名前を聞いたのに忘れてしまった。表面に細かい毛が生えていて、雨粒をはじく。それが、放射状に広がっている葉の中心にたまって、宝石のような粒になる。

 所長は雨の日が大好きだ。うきうきしているのが声でわかる。傘をさして歩いていたから表情はよく見えなかったけど、長靴をはいてぬかるんだ所を歩いているのに、動きがすごく軽い。水や泥がはねても全然気にしてない。浮いてるんじゃないかと思うくらいだ。普通の靴でついていくのはすごく大変だった。

 疲れてしまい、夕食のあと平岸家のテレビの間でダラダラ過ごしていたら、平岸ママに『試験近いんでしょ?』と言われた。それ以上は特に勉強しろとか部屋に戻れとは言わなかった。8時頃にカッパが来て見たい番組があると言ったので、部屋に戻ることにした。


 新橋さん、最近変な感じしない?

 近くに何かついてるっていうか。


 と聞かれた。そんなことはないと答えた。幽霊の話だろうか。

 私は未だに、高谷と一緒にいた男の人が幽霊だというのが信じられない。所長の幽霊は信じられるのに、高谷の方はどうもうさんくさい気がする。空中に話したりするのもフリなんじゃないかと。でも、何のためにそんなことをする必要が?わからない。

 今日はほとんど勉強しなかった。明日からやろう。


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