2016.6.12 日曜日 サキの日記
佐加が平岸家に遊びに来た。大量のCDケースをトートバッグに詰め込んでガチャガチャ言わせながら。
最近、昔の音楽に凝り始め、youtubeでPVを検索しまくり、気に入った曲は買える範囲でダウンロードしたり、ネットで中古CDを探しているそうだ。ヤフオク使ってる?って聞いたら、『ママがアカウント持ってる』と。アプリは?と聞いたら、
うちの親CD好きだからさ〜。うちもなんとなく好きな曲データで持ってたいんだよね〜。ネットつながりにくい所あるじゃん。この町。ヨギナミの家に行く途中とかさ。だからつながってなくても聴けるの便利なんだよね〜。でもさ、曲増えすぎて整理すんの大変だけどね〜。
テイラー・スウィフトやアリアナ・グランデ、ケイティやアヴリルなど、佐加の好みは洋楽に偏っていた。たぶんファッション雑誌のせいだと思う。セレブ情報から音楽に入ってる感じがする。
佐加は私にアヴリルのCDを無理やり貸し出した。うっかりCDプレーヤーを所持していると言ってしまったからだ。『田舎に行くんだから持ってったほうがいい』とバカに押しつけられたポータブルDVDプレーヤー。くやしいがバカの判断は佐加に関してだけ当たっていて、あとは間違ってる。今はみんな、田舎だろうとどこだろうとアプリか配信で音楽を聴いていて、CD使ってる人のほうが少ない。クラスのみんなもだいたいアプリだと思う。
佐加に渡されたのは『Goodbye Lullaby』というかなり前のアルバムだった。佐加は絶対聴くようにと私に言うと、あかねと一緒に研究所へ行ってしまった。一応止めたけど無駄だった。あかねが一緒というのが気になる。というか怖い。また夕食で『猫耳美少年妄想』を口から発されそうだ。
私は部屋で仕方なく佐加のCDを聴いていた。大半の曲は気に入らなかった。でも、『Everybody Hurts』だけがものすごく刺さって、今日はずっとこの曲だけ一曲リピートしていた。
誰だって傷つく。
誰だって叫ぶ。
誰だってそんなふうに感じることはある。
それでいい。
ものすごく普遍的なことを簡単な言葉で言ってる。音の流れも切ない。私は切ない音楽が好きみたいだ。
佐加に、好きな曲があったと送ったら、『でしょ〜!』とすぐに反応があった。でも、佐加が好きなのはもちろん別な曲だった。
平岸さんと佐加にCDラックを荒らされたよ。
というメールが所長から来た。
先に知らせてあげるべきだったと思った。




