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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年10月

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2015.10.4 研究所


 黒ずんだ雲が恐ろしいほどの早さで東に流れていく。雨はやんでいて、予報ではこれから晴れる見込みだ。

 嵐のあとの晴れの日は草が雨露で輝き、雲も荒れた名残で複雑な形を見せる。外歩きはきっと楽しいだろう。

 でも、そんなことを面白がるのは自分くらいなものだろうなとも、久方創は思っている。

 そこに、例の遠慮のない助手のどす黒いピアノ演奏が聞こえてきた。頭に響く邪悪なスカルボだ。どうやら演奏者はまだ低気圧の中にいるらしい。早めに出た方がよさそうだと考え、裏口に直行して草の多い道に入った。


 まだ日差しは弱いが、それでも朝の光は草木を輝かせるのに十分な力を持っていた。林は秋の色に変わりつつあり、夏は鮮やかな強い色を見せていた紫陽花や他の花たちは、色褪せながらもまだ生命を保っていた。その薄い色調のほうが、見る側には哀愁のようなものを感じさせ、かえって心を打つ。

 まだ、風が残っている。

 帽子を飛ばされないようにしなくては。

 林を抜け、視界が一気に空に開けた。

 いつ見ても壮大すぎる光景だ。しかも今日は草の一本一本が風で複雑に揺れ動き、低気圧の名残の雲が空を芸術的に彩っている。

 その隙間から見える鮮やかな青。

 ときおり差し込む朝日。

 照らされるのが恐ろしいほどの。


 久方創はしばらく、空を仰ぎながらその全てに圧倒されていた。『草以外なにもない』と形容されがちなこの土地は、彼にとっては情報が多すぎるのだ。自然から来る体感という情報が。

 雨が降り始め、寒さを急に感じた。走って建物まで戻り、ヒーターをつけてコーヒーを入れにキッチンへ行くと、不快な表情の助手がいた。


 こんな天気悪い日に何で外に出るんだ?


 この助手に自分の見たものを話しても、全く理解出来なさそうだ。

『所長』は無言でコーヒーだけ持って部屋に戻り、まだ体に残っている寒さに震えながら、ぼんやりとした空想に逃げていった。




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