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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年6月

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2016.6.9 木曜日 サキの日記

 昨日の夜、寝る前に、佐加からメールが来た。『おっさん』つまり所長に取りついている幽霊から聞いた話が書いてあった。

 ひどい話だった。

 お母さんに幽霊を押しつけられたところまでは、所長から聞いていた。でも、それが具体的にどういうことなのかは、きっと辛すぎて話せなかったんだろう。それか、覚えていないのか。

 生まれた瞬間から全存在を否定される。

 別な人間になるように強制される。

 恐ろしいことだと思う。その原因はあの幽霊だ。いや、母親か。


 昼休みは他の人に聞こえるからか、佐加は所長の話も『おっさん』の話もしなかった。河合先生の服をかっこよく変えたいという話ばかりしていた。

 所長に会いたかったけど、今日行くと余計なことを聞いてしまいそうだし、中間試験も近くなってきた。図書室で勉強してから帰った。


 夕食のあと、アパートに戻る道で、高谷が近づいてきた。


 佐加に聞いたよ。久方のこと。


 高谷にいつものふざけた感じはなかった。


 俺の幽霊の話も、久方に聞いたんだろ?

 それとも佐加に聞いた?


 何と答えていいかわからなかった。


 知ってることは全部話すよ。だから、明日の帰り、教室に残ってくれない?佐加と、あ、ヨギナミはバイトだから無理か。知ってる奴らだけで話し合おう。


 気が進まなかった。あまり所長の噂をしたくなかった。でも断れなかった。知りたいことが多すぎた。

 部屋に戻ってから英文法の勉強を始めたけどすぐに飽きて、数学もすぐ嫌になって、本やネットを散々見まくった末に、またコーヒー飲んじゃって、もうすぐ日付が変わりそう。

 所長の不安定なところ、私によく似ていると、去年の夏に会った時からずっと思ってた。でも、受けた傷はきっと、所長のほうがはるかに深い。


 今日の私はとても感傷的なので、うっかりバカピョンのメールに返信してしまった。


 え?何!?どうした!?何があった!?


 と電話してきた。なんですかその反応は。

 仕方ないので、『クラスに幽霊に取りつかれてる子がいる』と軽めに話してみたら、


 俺も幽霊に襲われたことあるぞぉ。

 由希と仲良くしてたら、嫉妬深い男の幽霊が俺に嫌がらせしてきて、演劇部の公演が終わった時になあ、鏡にそこにいない男子が写ってさあ、俺を怖い目で睨むんだよ。思わず鏡を叩き割ったな。もちろんあとで代金は弁償させられたけどな。ワハハ。


 この話、私はもう400万回は聞かされてると思う。

 奴は『由希と俺に嫉妬した男のバカな行動』をせせら笑うのが大好きな勝ち組だ。かなりお気楽な。

 母からは最近なんの連絡もない。所長とは比べものにならないけど、私も母という存在になんとなく避けられているような気がする。こちらから連絡しようかどうか迷ったけど、今日はできなかった。

 どうしよう、全然眠くならない。



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