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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年6月

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2016.6.7 火曜日 サキの日記

 

 いい曲見つけちゃった。すごく昔のだけど。


 リオから、久しぶりにそんな連絡があった。


 新しいパパのCDの棚をあさってたら見つけちゃった。


 とあったので、文字通り目をむいた。

 けど、曲は良かった。


 Diana Kingの『Still』


 ジャケットがセピア色の、ベスト盤じゃないほうに入ってるよ。

 なんでこんないい曲をベストに入れなかったのかな。


 売れ筋とはちょっと違う曲だからだろうか。コーラスのリフレインが心地よいラブソング。see our children‘s childrenって、かなり未来まで一緒にいて、家族をたくさん作るところまで望んでいる感じ。日本では重いかもしれない。福山雅治の『家族になろうよ』みたいな(私はあの曲があまり好きではない。劇団の手伝いをしに来たおばさんが福山ファンで『カップリングのほうがいい曲だ!』と言って、『ファイティングポーズ』を聞かせてくれたことがある、私もおばさんと同意見である)。


 リオは、どんなことを考えながら『パパ』なるものと付き合っているのだろう?

 そこは突っ込んで聞いたことがなかった。聞くと、責めているように聞こえてしまいそうで。音楽とか映画とか、芸術全般に詳しくて、話し合うだけで楽しすぎたから、うっかり大事なことを聞き忘れてしまったような気がする。今日もそのことは聞けず、曲の感想と、最近のこと(幽霊の話はまだできないけど)を少し送った。




 ねーねー、これセンセーに似合うから買ってみね?


 佐加が河合先生にスマホを見せて騒いでいた。ファッション誌に載っている服が先生に似合うと思ったらしい。あとで見せてもらったけど、ランウェイ向けすぎて正直微妙だと思った。どちらかと言うと、うちのバカとカントクが冗談で着てみたらさぞかしウケるであろうと思われるデザインだった。想像すると笑える。サングラスをつけたらなお良い。

 親の話もリオの話も、佐加にすると東京!ファッション!セレブ!となりそうなので言い出せない。

 この町の人に『東京から来ました』と言うと、パリやニューヨークに住んでいる人に会ったかのような大げさな反応をされることがある。イベントがたくさんあっていいなあとか、芸能人を見かけるんだろうとか、ファッションがどうのビジネスがセミナーがと、私自身が全く興味のない事柄について勝手に感心されるのだ。一人くらい『本屋も古本屋もたくさんあっていいですね』と言ってくれたら良かったのに、そこに気づいたのは所長だけだった。みんな本はアマゾンで買うのだろう。古本屋で『運命の本』に出会う喜びを知らないのだろう。

 とにかく、まるで東京に生まれたのが幸運で、自分たちは『うっかり北海道に生まれちゃった』みたいな言い方をする。この町草しかないしね。行くところは駅前のスーパーとセコマくらいしかねえ、みたいな。でも、東京では逆に『札幌におじいちゃんいるの?いいなあ』『北海道に行くの?いいなあ。僕も行きたいけど金銭的に余裕なくて』と言われた。

 私はどちらの反応も、何かが違うと思うのだけれど、それを上手く説明できない。


 関西だと、神戸と大阪と京都はお互いに合わないと思っている人がいるね。特に、大阪と一緒にされると嫌がる人が多い。


 そういえば、所長は神戸にいたんだっけ。


 でもね、僕はここに来て感じたんだけど、本州方面の話を聞いて羨ましがる人って、実は『秋倉町が一番いい』と思ってる人がほとんどだよ。なんだかんだ言って、自分たちが育ったところが一番いいって。


 ピアノの音が聞こえた。今日はショパンの日らしい。

 なんとなく、重い曲ばかり選んで弾いている気がする。


 サキ君、やっぱりあいつが気になるの?


 最近所長がこう言って悲しそうな顔をするので、私は結城さんの話がしにくい。





 帰ってからさんざん迷って、リオに、結城さんと目があったあのときの経緯を送ってみたら、


 それは恋!ぜーったい恋!

 しかも相手も意識してるやつ!

 おめでとう!


 というテンションの高い返事が来て、私は机に置いたスマホの上に突っ伏した。

 恋なのか。

 やっぱり恋なのか!

 ああやだ、認めたくない。

 前にもそれで痛い目に遭っているのに。

 畠山のこととか、前の高校に入ってすぐ起きたことを思い出した。気分が落ち着かなくなってコーヒーを飲んでしまった。眠れないのでネットで洋書をあさりまくり、愛だの恋だのについての英語の本を衝動買いし、激しく後悔しながら夜ふかしして今3時。

 やばい、少しは寝ないと。





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