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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年6月

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2016.6.7 火曜日 須磨今 自宅

 町長の娘、こんは、自室にキャンドルを灯し、ベルベットクロスを丁寧にテーブルに広げた。タロット専用の高価なものだ。それから、愛用のライダー・ウェイトタロットを棚から取り出し、シャッフルし始めた。最近伊藤につきまとっている幽霊つきの『カッパ』、高谷修平について占うためだ。

 念を入れ、十分に混ぜたあと、何度かまとめ直すと、これだ!と感じたカードがあった。一枚引いた。


『死』のカードが現れた。


 今はそれをじっくりと眺め「あの先生の死を意味しているのかしら」と思いながらもう一枚、直感が選ぶカード、上から7枚目を引いた。


 ワンドの10。

 重荷、制御不能。


 今はそれをじっと見た。お前にはどうにもできないよ。そんな声が聞こえたような気がした。

 カードは全て戻され、またシャッフルされた。やり直すのが邪道なのは今はもちろんわかっている。シンカ先生にもやめたほうが良いと言われたことがある。同じ事柄を繰り返し占っても混乱するだけだ、自分も、スピリットも。

 今は時間をかけて精神統一し、また、2枚のカードを引いた。

 順は違ったが、出たカードは同じだった。


 ワンドの10。

 そして、

『死』


 今は、2枚のカードを見つめたまま、長いこと動かなかった。これは一体どういうことだ?

 いや、判断はもう出来ていた。今は生まれつき直感が強く、それを駆使する訓練も十分にしてきた。自分の判断に自信がないことはめったになかった。いつもならここまで迷わない。しかし、どうにも信じられない。

 しばらくしてから、彼女はカードを片付け、場を清めるためにホワイトセージを焚き、キャンドルを消した。そうやって場を日常に戻してから、スマホを手に取り、保坂秀人に尋ねた。


 高谷修平の病気について、何かご存知?


 返事はすぐに返ってきた。


 病名はなくて、生まれつき体が弱いんじゃなかった?

 一緒に歩いてるといつも疲れたとかだりぃとか言ってるし、ジンギスカンしたときも、そういやあまり食ってなかったべ。


 あまり参考にならない答えだ。


 高谷がどうかした?


 伊藤にまとわりついているのが気に入らないわね。


 伊藤ちゃん図書委員長だからしゃあないべや。

 それより、曲もうすぐ完成するから、次のセッションの日程決めるべ。


 親から逃げ回りつつ、作曲は地道に続けているのがいかにも保坂らしい。


 わたくしも、いい歌詞が浮かんだわ。


 やり取りを終えてから、今は本棚に向かい、分厚いタロットの専門書『叡智の78の段階』を取り出した。たまには復習するのも悪くはない。

 今は、先ほど出た2枚のカードを深く懸念していた。本来なら『死』のカードが出ても、それをそのまま本当の『死』とは読まない。変容、何かの終わりと再生、そのように解釈する。取りついている幽霊を表しているだけかもしれない。

 しかし、今回は、いつもにはない胸騒ぎがする。

 高谷には、本当に『死』が運命づけられているのではないか?

 それとも、自分の想いが絶望的という意味なのか。

 今は伊藤百合を想った。

 愛しい伊藤。

 彼女を思うと、いつも心が天高く舞い上がる。

 だからこそ、ワンドの10が懸念されるのだ。


 重荷、困難、大きすぎるエネルギー……。




 

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