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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年6月

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2016.6.3 金曜日 サキの日記

 ものすごく寒い。6月なのに、平岸家の暖房がつけっぱなしで、私は冬まで使うつもりがなかったカーディガンをまた出した。

 朝、カッパに、どうして秋倉に来たか聞いてみたら、


 新橋さんに会いに来たに決まってるじゃな〜い。


 不気味な笑みでふざけられた。ああ気持ち悪い。

 あかねがこの発言に喜んでしまい、また転校生ラブラブ妄想を語られたので、私はパンを持ったまま逃げ、早足で学校に向かった。


 第1グループは、学校祭の出し物を『レストランのメニュー提供で』乗り切ることにしたそうだ。藤木が近寄ってきたのでちょっと怖かった。身長が2メートルくらいあって、体格もがっちりしてるから、近くに来ると圧迫感がある。


 ヨギナミがレストランのシェフに頼んでくれたから、俺らで食事出して、第3がコーヒーとスイーツを出して、共同でやらない?


 なぜか班長のあかねではなく、私に相談された。返事していいかわからなかったので、ちょうど来た高条の方を見たら、


 いいんじゃない?

 オレらだけでやるのも辛いと思ってたし。


 という返事だった。あとから来たあかねと高谷も同じ意見だった。佐加は『うちもカフェできる!やった!』と大喜び。

 問題は杉浦だ。『日本の文豪の暮らし』という展示がどうしてもどうしてもどうしてもやりたいと言い張る。みんなで反対しているうちに朝礼の時間になって河合先生が来た。先生が『やりたかったら全部やればいいじゃないか』と無責任発言をしたため、第2グループまで巻き込んで朝から大いにもめた。


 昼休み、所長から、


 熱が出て寝てる。

 風邪がうつったら困るから来ないほうがいいよ。


 というメールが来ていた。菌は思わぬ方向に飛んでいた。もしかして私がうつしちゃったのかと思ったら、


 ごめん、私だと思う。

 うちにお見舞いに来たの、あの、おっさんの方が。


 ヨギナミがすまなさそうに言った。佐加が『うわ〜所長かわいそ〜!!』と叫んだ。クラスのほぼ全員がこちらを見た。みんな気になってるんだろうか、所長のことは。

 結城さんに会いたい。

 でも今日は行けない。

 最近そんなことばかり考えている。帰り、研究所の林のあたりをうろうろと歩いた。結城さんが通りがからないかなと思って。でも誰も来ないし、今日は寒気のせいで13度くらいしかない。すっかり凍えて平岸家に帰った。平岸ママにまた試作品を渡されそうになったので、所長は風邪で寝ていると伝えたら、


 まあ!そうなの?また雑炊を作らなくては!


 と目を輝かせ、夕食の時にはいなくなっていた。


 母さんは病人が出ると張り切っちゃうからなあ。


 平岸パパが蒸し鶏を切りながら言った。


 世の中には、人をむやみに攻撃したり意地悪したりする人も多いけどね、「人を助けたくてたまらない」という人も同じくらいいるもんだよ。そういう人にとっては、人助けは習い性、まあ、本能だなあ。だから、人に助けてもらうことを後ろめたく思っちゃいかんし、助けは迷うことなく求めるんだ。わかるかい?今は困ってなくても、いずれそういうのが必要になる日は来るからなあ。誰だってそうだ。

 でもなあ、母さんのは少々押しつけがましくてなあ。

 ハハハ。


 あかねの機嫌が悪く、ずーっとむっつり顔で黙っているせいか、平岸パパは私にこういう話をし続けていた。もしかしたら、昔私が学校やいじめのことで追い詰められていたことを知ってるから、わざと言ったのかもしれない。

 帰りにまたカッパに、なぜ秋倉に来たか聞いたら、


 そんなに俺のことが気になる?


 とまた不気味に笑われたので、次の『お父さんは所長のこと前から知ってたの?』という質問ができなかった。

 また今度にする。





 

 

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