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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年5月

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2016.5.30 月曜日 サキの日記


 サキ君があいつを気にするなんて、気に入らないなあ。


 所長が、畑の苗や土に手を触れながら言った。結城さんは今日、札幌に出かけていていないと言われたので、そもそもあの人なんでここにいるんですか、どういう人なんですか?と質問しまくってたら嫌がられてしまった。


 でも、不思議なのはわかるよ。あいつはどう考えても田舎で暮らしたがる人間じゃないし、人の世話を好むタイプでもない。僕もよくわからないんだよね。きっと、ピアノが弾ければあとはどうでもいいんじゃない?


 結城さんも同じようなことを言っていたっけ。でも、『金の問題じゃない』とも言っていた。もしかしたら、軽口で茶化しているだけで、本当は所長のことを真剣に心配してたり……しないか。


 サキ君、ヨギナミと同じクラスだよね。

 最近こっちには来ないけど、元気?


 と聞かれて驚いた。ヨギナミの話は聞きたくないのかと思っていた。でも、去年の夏、そういえば、ヨギナミはここの畑に来ていた。麦わら帽子とシャツとそばかすが印象に残っている。


 あいつが家にくるせいで、こっちには来づらくなったのかなって思ったんだ。野菜ができたら渡したいと思っていたんだけど、僕があの家に行くと誤解を招くでしょう?


 私が持っていってあげるし、佐加が喜んで取りに来ますよと言ったら、所長は『佐加はやめて』と言って、何かを振り払うように頭を左右に振った。



 その佐加は今日、『お腹痛い』とか『あーだりぃ』とか、『ムカつく』とか、一日中暗い顔でつぶやき続けていて、昼の教室の雰囲気も緊張が感じられた。生理痛のひどいやつが来たらしい。いつもふざけている男子も今日はダークな佐加を察してか、静かにしゃべっていた。

 しかし、空気をあえて読まない人もいる。

 スマコンが、


 政治家に金を渡すとドボン、しーずーむー。


 という変な歌を歌い始めた。杉浦が、


 やめろ!やめたまえ!頭が腐る!

 

 と叫んだ。

 その瞬間、佐加がキレた。



 うっせーホソマユ!!スマコンも歌うな!!



 すさまじい怒鳴り声が響き渡り、教室は静かになった。

 めちゃめちゃ恐かった。

 佐加って、機嫌いいときと悪いときの差が激しすぎる。

 5時間目の前に、佐加は保健室に行き、そのまま早退してしまった。ヨギナミがノートをコピーするために職員室に向かったが、その前に、

 

 最近、所長に会ってないけど、元気そう?

 おっさんも最近家には来てないんだあ。


 と。両方をしばらく見ていないから心配してたらしい。

 ある意味、両思いだなあ。ヨギナミと所長。


 私は結城さんのことばかり考えていた。

 今日会えなくて残念。

 もしかしたら、結城さんもあのとき、何かを感じたんだろうか。それで私を避けて出かけちゃったのかな。

 札幌で何をしてるんだろう?まさか彼女がいたりしないよね。そういえば、結婚とかしててもおかしくない年齢かも。そもそも、結城さんって何歳なんだろう?

 本当に、結城さんは何者なんだろう。

 こんなところで所長のために働いて、意識が飛ぶくらいすごいピアノを弾いて。

 なんだか今日も眠れそうにない。

 ホンノムシ科の生物を自認していたのに、ここ数日は本も手につかない。

 私、どうしよう、本当に。






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