表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年5月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

344/1131

2016.5.27 金曜日 サキの日記

 研究所に行こうと思った日に、狙ったように臨時HR。

 7月に学校祭があって、グループごとに出し物を決めなくてはいけない。ただでさえ人数が少ないクラスなのに、4人ずつで何かやれって無理だと思ったんだけど、他のグループは去年『たこ焼き売ってけっこう儲かった』『文芸の展示は高齢の方に好評だった』とか言ってる。

 もしかして町の人も来るの?と聞いたら、


 秋倉高校の学校祭には町の人もたくさん来る。町の祭りのようなものだ。だから客の平均年齢は高い。文化レベルの高いものを提供しなくてはならない。


 とか、杉浦に力説された。しかし、佐加はこの『文化的な展示』は『つまんね』と言い続けていて、第1グループの話し合いは難航していた。4人ともやりたいことが違うみたいだ。藤木は浜の海産物を焼いて売りたい。杉浦は展示したい。佐加はパンケーキカフェをやりたい。ヨギナミはずっと黙っている。めんどくさいんだろうか。

 うらやましいのは第2グループだ。


伊藤「去年人気だったから、今年もたこ焼きで」

奈良崎「いいねえ、たこ焼き」

須磨「それがいいわ」

保坂「はいじゃ〜たこ焼き!決定!」


 で即決。あとは当日どうするかとか、材料をいつどこで買うかとか、具体的な話がどんどん進んでいく。


 うちのグループは……無言。

 ただしカッパ以外。『ゲームセンター作ろう!』とか意味不明なことを一人でしゃべって勝手に盛り上がっているウザい高谷。沈黙する残り3名。ほんとに、あかねと高条が何もしゃべらないで、集めた机の真ん中あたりを凝視しているので、私は怖くなってしまった。そもそも何もしたいことがないし、どうしていいかわからない。

 私は他のグループの会話を聞いていた。第1グループは『ホタテかスルメが売れないか、浜の業者に尋ねてから決める』という結論に達したようだ(ただし、杉浦は、一人でも展示パネルを作成すると言い張っている)。第2はとっくに学校祭の話を終えて、『保(奈良崎の名前、保坂と似ていてややこしい)の家にたこ焼き器あるべ』『たこ焼きの話してたら食いたくなってきた。今日作ろっかな』とか、放課後の予定に話が移っていた。

 外野が順調に話をまとめているのをぼーっと聞いていると、あかねが突然、


 石ころ帽子が欲しいわ。


 と、暗い目でつぶやいた。

 何それ、と高条が聞くと、


 ドラえもんが持っているのよ。その帽子をかぶると、そのへんの石ころのように誰の目にもとまらない存在になれるの。そうやってこのバカ騒ぎを静かに無視されてやり過ごしたい。




 沈黙。





 出し物がどうこう以前に、あかねは、学校祭というコンセプト自体を嫌悪しているようだ。

 第3グループのあまりの静けさに、河合先生が近づいてきた。


 やること決まんないのか?高条、松井さんにカフェから手伝ってもらえないか頼んでみたらどうだ?他のグループは飲料は出さないみたいだから。


 すると佐加が『あーずるい!うちもカフェやりたかったのに!』と叫んだ。高条はすごく嫌そうな顔をしたが、このままだと何も決まらないままHR終わりそうだと思ったんだろう。『マスターに聞いてみます』と答えた。


 あ!そうだ!平岸ママにお菓子作ってもらって、マスターのコーヒーと一緒に売ればいいんじゃない?


 高谷が余計なことを思いつき、あかねが『てめえ、ぶっ殺す』という目で高谷をにらみつけた。『あ!それいい!最強じゃね!?』と佐加が喜び、『おたくのグループは人的資源があっていいわね』とスマコンに言われたが、これは嫌味のような気がする。



 気まずいHRのせいで、所長のところには少ししかいられなかった。例の珈琲本を見せたら、『うわあ、これは行きたくなるね』と、カフェの写真に見入っていた。しばらく黙って本を見ていたと思ったら、


 サキ君、前に、『近くに誰かがいたような気がする』って言ってたよね?


 急に言い出した。いつの話だろう?


 そういう感じって、よくあるの?


 最近はありませんと答えた。


 またあったら、すぐ僕に教えて。夜中でもいいから。


 何か気になるんですかと聞いたら『いや、思い出しただけ』だそうだ。心配してくれてるんだろう。そういえば、去年はマンションから、何度も不安定な通話を仕掛けてしまったっけ。

 最近はそういう気分にならない。あれは本当に同じ自分なんだろうかと思うくらいだ。たぶん、人と話すようになったからだろうか、それとも、平岸家で良い食事をして、規則正しい生活をしているからだろうか。

 所長のもう一人はどうしましたかと聞いたら、


 その話はやめよう。


 と、本を持ったままそっぽを向かれた。まだ話せる気分ではないらしい。気になるけど仕方ない。



 平岸ママは、学校祭のお菓子計画に超乗り気だ。夕食の間、変にテンションの高いカッパと、どんなものがいいか話し合いを始めてしまった。ちょうどウイークエンドを作りたい気分だったとか、なんとかケーキがどうとか。あかねはずっと機嫌が悪そうで、早口で食事を済ませてすぐに姿を消してしまった。私は好きなスイーツを聞かれまくって困った。マカロンが好きだけど、学校祭に出すものじゃないような気がする。雰囲気が。普通にクッキーでいいじゃないですかと言ったら、平岸ママに『つまらん』と一蹴された。高谷がやたらに聞いたことのないスイーツの名前を連呼していたのも気になる。お菓子の食べ過ぎで病気になったの?と皮肉を言いたくなるくらいだ。

 第3グループ、どうなるんだろう。

 難しいなあ、集団行動。私は本当にこういうの苦手だ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ