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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年5月

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2016.5.26 木曜日 サキの日記

 図書室のオススメコーナーに『作家の珈琲』という本が飾られていた。嬉しそうにコーヒーを飲む、文豪らしきおじさんの写真が表紙の本。

 いかにも私を釣りたくてたまらない題名。しかし、カウンターから図書委員長の期待に満ちた視線を感じた私は、その手には乗らないぞと思って、別な本を探しに本棚の奥まで行った。でも、さっきの珈琲本が気になって仕方がない。他にいい本がないか探し回った(正確には、探し回るふりをして『あの珈琲本を借りようかどうか』悩んでいた)。

 結局、私は負けた。

 カウンターに『作家の珈琲』を出した時の、伝説の図書委員長の笑みが忘れられない。なんか悔しい。


 私のコーヒー中毒に関しては、平岸ママが『飲むの少し控えたほうがいいんじゃない?カモミールとか、ローズヒップならうちにありますよ』と言ってくる。朝飲んで、所長のとこでも飲んで、前は夜も飲んでた。一応秋倉に来てからは夜は控えてるけど、たまにどうしても飲みたくなる。実は今日もだ。本のせい。飲んでいたらさっきの伊藤ちゃんの笑顔を思い出した。やっぱなんか気に入らない。

 本はすごく良かった。いろんな作家のコーヒーにまつわる話と、行きつけのカフェの話が書いてある。載っている場所に全部行ってみたくなる。でも、今私がいるのは北海道だ。東京でも京都でもない。

 地方にいるってこういうことなんだなと思った。本によく出てくる世界が、遠い。もちろん、北海道が舞台の物語もあるし、海外の小説だって読むから、いつでもその舞台に行けるわけじゃない。でも、文化ゆかりの地、作家ゆかりの店はやはり東京が多い。本屋の数からして違う。

 私はここに来て良かったんだろうか。

 でも、あのまま東京にい続けてる自分ももはや想像できない。所長に会っちゃったせいだ。出会ってから今まで、知れば知るほど謎なんだもん。


 読んでいるうちに、コーヒー好きの作家たちのとても豊かな(金銭的にではなく、文化的に。高度成長期が重なったのも影響するかも)生活の仕方だ。お気に入りのコーヒーやコーヒーカップを愛で、行きつけのカフェや仲間を持ち、文化の中心で創作する。

 今の作家は多分、こんな豊かさは持っていない。同じ街に住んでいたとしても、何かが違う。何が?それはうまく説明できない。時代のせいだけにもしたくない。

 私が大人になったとき、この本に出てくる作家たちのような豊かな人生を歩むことは、まずできないだろう。

 なんだか考え込んでしまった。コーヒーの話で。

 それでコーヒーが飲みたくなって夜8時過ぎに飲んじゃって、今眠れない。

 明日は所長に会いに行こう。この本を見せに。




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