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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年5月

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2016.5.22 日曜日 サキの日記

 かま猫が、研究所の割れ目にまた現れた。

 所長が買い置きしてくれていたキャットフードの缶を開けて、皿に入れて入り口に置いたら、出てきて食べ始めた。かわいい。


 今までどこにいたんだろうなあ。


 所長はそれが気になるようだ。佐加がこのあたりの林で見たことがあると言っていたから、あまり遠くには行っていなかったのかもしれない。

 建物の中からはずっと、結城さんが弾いてる『夜のガスパール』が聞こえ続けていた。

 この曲、絶対前にどこかで聞いたことがある。

 そう思うんだけど、いつ、どこで?

 それが思い出せない。カントクが舞台のBGMにでもしていたんだろうか?


 劇団を思い出して懐かしくなったので、この曲を口実にカントクに連絡を入れてみた。


 そんな高尚な曲を使った覚えはないわネ。


 カントクはすぐに返事をくれた。


 なんだか怪しい人が周りにいるみたいだけど、元気にやってる?変な男がついてない?


 隣にカッパが住んでますと返信したら、


 隣が男子ってこと?ふつう学生寮って男女別じゃないの?そこ、管理体制はどうなってるわけ?


 おばちゃんみたいな詮索が始まってしまった。

 文字のやり取りがもどかしくなって電話したら、話が弾んで2時間くらいしゃべってしまった。カントクも誰かと話したかったんだろうな、きっと。

 平岸家は学生寮じゃなくて、一般のアパートと普通の(平岸家を普通と呼んでいいのか迷うけど)家を組み合わせたような感じでアットホームで、平岸パパは本業が生徒たちのパパなんだと説明した。


 まるで舞台装置ねえ!身寄りのない子供のための。

 帰る家のない子供って、舞台装置のない俳優みたいなもんよね。演じようにも舞台がないから困っちゃうのよ。一切舞台装飾なしの一人芝居なんて、よほど実力のあるやつにしかできないしねえ。

 きっとその夫婦はパパとママを演じることで、子供が子供になれる場所を作っているのヨ。

 最近は『親のフリ』もできないようなのが増えてるしねえ。誰とは言わないけどネ。


 なんとなくうちの豚まんと妙子を指しているような気がした。あの二人、親というより恋人同士だからなあ、変人の。


 台本ができたから送るわ。暇つぶしにでも読みなさい。

 サキちゃん、最近は書いてないの?小学生のときはテレビドラマみたいなの書いて見せてくれたじゃない、ほら、バレンタインの話とか……。


 幼少期の黒歴史を掘り出されそうになったので、慌てて『宿題があるから』とわざとらしく通話終了。

 宿題は本当に出ていた。今思い出して慌ててやったところ。量が少なくて本当に良かった。

 そういえば、河合先生に進路を聞かれてたっけ。

 漠然と『文章を書きたい』としか思っていなかった。

 やっぱり大学かなあ。受かる気がしないけど。

 就職なんて想像もできないし。





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