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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年5月

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2016.5.21 土曜日 サキの日記

 昨日、学校帰りに、佐加が走ってきて、


 あれ!保坂の親父だよ!ついてこ!


 訳も分からないまま、ヨギナミと佐加と私で、知らないおじさんを尾行することになってしまった。スーツを着て眼鏡をかけた地味な、どこにでもいそうな人で、草原をまっすぐ、研究所に向かって歩いて行った。


 やば~!!与儀ママをめぐっておっさんとバトルする気じゃね?


 佐加が研究所の林を見ながらつぶやいた。おっさんって?と聞いたら、


 所長の邪悪な兄のほう。


 とあっさり言われた。そのあとヨギナミがしてくれた説明を聞いて私は驚いたと言うより、腹が立ってきた。この二人、私より先に所長のもう一人に気づいて、けっこう前から仲良く話していたそうだ。

 それは本来の所長じゃないから仲良くしないほうがいいと私は言った。幽霊とか二重人格と言ってしまうとまた佐加が変に誤解すると思ったので、とにかくその『おっさん』は所長じゃないと私は言ったけど、佐加は、


 だって、悪い人じゃないと思うし、ヨギママと仲がいいからさ~。


 そういう問題じゃないと言っても『かわいそうだから』『おもしろいから良くね?』と全然気にしてる様子なし。詳しい話が聞きたいので、バイトが休みだと言うヨギナミの家に一緒に行くことになった。

 ヨギナミは、草原の真ん中にぽつんと建っている小屋に住んでいた。あまりにもまわりと隔絶していて、行くのが怖いくらいだった、一人だったら逃げ出していたかもしれない。こんなところにヨギナミは住んだり歩いたりしているのかとびっくりした。佐加はともかくヨギナミはおとなしそうだけど、バイトもしてるし、やっぱり強いんだと思った。

 ヨギナミのお母さんは、顔色が青白いと言うより紫色に近い感じで、今日は調子が良くないから静かにしてほしいと言ってベッドで目を閉じだまま動かなかった。佐加が。


 じゃ~カフェ行こうぜカフェ!


 と言って松井カフェに電話をかけ始め、また私たちはけっこうな距離を歩いて松井カフェまで行った。運悪くカウンターで高条が勉強していて、たぶん私たちの会話は全部聞かれたと思う。もちろん松井マスターにも。

 ヨギナミから聞いた話。去年あたりから『もう一人の久方さん』が雪かきを手伝ったり、お母さんに会いに来たりするようになった。いい人だし助かっているけど、母親と仲が良くなりすぎると久方さん本人に迷惑になりそうで心配だ。

 佐加から聞いた話。『おっさん』はパチンコやこの松井カフェによく現れ、所長より町の人と仲が良くなっている。町のおっさんの中には、『おっさん』が久方創だと思っている人がけっこうな数いる。

 私はどうしていいかわからなくなってしまった。きっと、人に会うのが苦手な所長と違って、あの幽霊のほうが社交的で人と話すのが得意なのだ。だからみんなあれが久方創だと思ってしまう。でも、本人はきっと、町で会った人のことを覚えていない。

 所長が研究所や山から離れたがらない理由もそれなんだろうか。単に自然が好きだからかと思っていた。そもそも、この町に来たのもそのせいだったりするんだろうか。

 佐加は『おっさん』のことをあまり悪いと思っていないどころか、出てくるんなら仕方なくね?相手してると面白いしと言っていた。ヨギナミは曖昧に笑っていた。

 そんなこと言われても、本来の所長はおとなしい久方創のほうだ。

 あの幽霊が出てこないようにするにはどうしたらいいんだろう?


 でもさあ、サキもう知ってたんだ~。もっと早く言っとけばよかった。うちら、いつ話そうか、そもそも話していいのかどうか、ずっと悩んで相談してたもんね。


 佐加が言い、ヨギナミがうなずいた。秘密を共有する友達。なんだか羨ましい。

 私も所長と同じくらい人が苦手なはずなのに、いつの間にか、カフェで噂話をする人の中に加わっている。それがなんだか奇妙な気がした。私はあっち側の人間だったはずなのに。

 今日佐加たちと話したことを所長に伝えようかどうか、私は今迷ってる。

 平岸夫婦には、夕飯の後ちらっと佐加のことを話しておいた。


 美月ちゃんはどこにでも出入りして誰とも仲良くなるからなあ。でもパチンコに子供が出入りするのは良くないよなあ。


 うっかりチクったことになってしまった。これで怒られたと言われたら、あとで佐加に謝っとこう。



 今日は休みだし、所長の所に行こうか迷ったんだけど、佐加のことをどう話していいかわからなくて、部屋で借りた本をめくりながらダラダラしていたら夕方になってしまった。



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