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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年5月

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2016.5.15 日曜日 ヨギナミの家

 母親と久方の『別人』がテレビを見ながら、最近のやつらは面構えだけはきれいだけどなんか演技に魂を感じねえななどと話しているのを、ヨギナミはキッチンで宿題をしながら聞いていた。高谷修平に『橋本』という名前を教えてもらっていたが、それを母親には教えていなかったし、別人も自分の名前を名乗ろうとしない。もしかしたらそれが、こちらの世界との境界線のようなものなのかもしれない。

 ヨギナミは宿題を解くふりをしながら考えていた。佐加と自分が聞いた話が本当なら、そして、この状態を治す方法が高谷にも久方さんにもわかっていないのなら、このままの状態でずっと暮らすしかないということになる。

 このままずっとこの状態で、どうなるだろう?そのうち名前が作り出す境界線もうすれてしまうのではないか、別人が久方さんの体で何か母にしたりしないだろうか?考えるだけで気味が悪かった。でも、母は別人が来ると嬉しそうだし目に見えて元気になるので、来るなというのも気が引けた。

 高谷修平の先生というのも本当なのか気になる。こちらの別人と違って話せず、見えないからだ。

 新橋早紀は本当にこの別人について知らないのだろうか?本当は知っているのではないだろうか。新橋早紀はクラスの他の人より落ち着いていて大人びて見える。杉浦から聞いた話だと、新橋早紀の父親は杉浦の両親と友達で、劇団にいるそうだ。劇団の人たちに可愛がられていると聞いたことがあるよと、杉浦が言っていた。もしかしたら、大人と話すことは新橋早紀とっては慣れたことで、特別なことじゃないのかもしれないとも思う。

 ヨギナミはもう少し考えていたかったが、バイトの時間が迫っていたので、二人に声をかけて家を出た。きっと夜まで二人でテレビを見続けるのだろう。それで、大人にしかわからない昔話をするのだろう。それ以外のことはできるだけしてほしくない。

 ヨギナミにとって良いことと言えば、最近「あの男」が母に近づいてこないことだ。奥さんに何か言われたのか、単に飽きたのか。できればこのまま永遠に来てほしくない。ヨギナミは誰もいない草原を歩きながら、これからを思った。母の病状は良くなっていない。自分は高校を卒業してもあの家から出られないだろう。そう考えると気持ちが暗くなる一方だった。家にいるよりはバイトをしている方がまだましだった。仕事ができれば多少は未来が開けるかもしれないと思えるから。



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