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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年5月

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2014.5.14 土曜日 研究所


 なあ、俺の話も聞いてくれよ。


 朝起きたとたん、そんな声がした。誰の声かはわかる。久方は無視しようとしてまた目を閉じて眠ろうとした。


 俺だって好きでお前と一緒にいるわけじゃない。こないだ来た高谷ってやつを覚えてるか?あいつに取りついてる幽霊は俺の親友だったんだ。


 聞きたくないが聞こえてくる。高谷修平が訪ねてきたときのことは、久方の記憶にも少しは残っていた。高谷の隣に、眼鏡をかけた男がうっすらと見えた。その瞬間に意識が飛んだ。


 あいつらもどうしていいかわからなくてお前に聞きに来たんだよ。


 僕に言われたってどうしていいかわからないよ。


 一回あの高谷ってやつと話してやってくれよ。


 嫌だよ。


 頼むよ。


 絶対に嫌だ!



 何を一人でぶつぶつ言ってるんだ?


 助手の荒い声で我に返った。ドアが開いていて、助手が険しい表情でこちらを見ていた。


 あいつが話しかけてきたんだよ。


 久方は起き上がりながら言った。軽い頭痛がした。


 何て言ってた?


 高谷修平と話してやれって。


 高谷?


 助手が嫌そうな顔をした。前に高谷がここに来たことがあるとそういえば話していたっけ。久方は時計を見た。いつのまにか昼近くになっていた。


 あいつには会わないほうがいいぞ。絶対またパニックになるんだろ。


 助手は言いながら姿を消したかと思うと、すぐに隣からピアノの音がしてきた。ホフマンの舟歌だ。珍しく乱暴じゃない音で弾いている。しかし隣で聞くには音が大きすぎる。久方はいつも通り慌てて着替え、一階に降りた。スマホに友人から連絡が入っていた。


 ポット君の修理の準備ができたから送って。


 久方はすぐ配送業者に連絡した。この町で業者と言ったら、幸福商会か、奈良崎のおっさんのどちらかだ。今日来たのは幸福商会の若い店員二人だった。


 二階の奥の部屋とか使ってないんですか?掃除なら俺たちでできますよ、数千円で。


 ちゃっかり営業しながら、ポット君を運び出していった。できるだけ早く戻ってきて、助手とケンカしている所を見て楽しみたいものだ。いや、佐加や、早紀以外の侵入者を追い払うように設定してもらえないだろうか。


 うっかり佐加のことを思い出してぞっとしたので、コーヒーを入れて落ち着こうとキッチンに向かうと、見慣れない鍋が置いてあった。いや、見たことはある。ヨギナミの鍋だ。なぜここにあるんだろう?ヨギナミが来たんだろうか、それとも別人が勝手に持ってきたのか。

 中を見たら、ショウガやネギと一緒に、豚肉の塊が茹でてあった。どういうことなのか聞こうと思い、ピアノの轟音の中を助手に近づいた。しかし、大声で呼びかけても助手は無視して弾き続ける。『所長』は諦めて一階に戻った。どうせお腹はすいていないし出かけようと思ったら、友人のメールの前にもう一通来ていることに気づいた。


 平岸さんに豚肉を二つもらったので一つどうぞ。母はあまり好きじゃないんです。


 ヨギナミだった。一応『ありがとう』とだけ返信しておいた。ヨギナミが自分で持ってきたのか、別人に持たせたのか、この文章ではわからない。

 あとでうどんでも煮て上に乗せようと思ったが、散歩から帰ってきたらもう助手に全部食べられてしまっていた。




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