2016.5.12 木曜日 サキの日記
あかねと佐加が私の知らないマンガの話でケンカを始め、お互いに教科書とか物を投げ始めた。藤木とヨギナミ、奈良崎が止めに入った。
まあ、いつものことよね。
通りすがりにスマコンにささやかれた。視界の隅で保坂が『ま、気にすんな』と声を発さずに口だけで言って笑っていた。ケンカのことなのか、スマコンのことなのかはわからない。
ガールズファイト!いいねえ!見たかった!
研究所に行ってケンカの話をしたら助手がいやらしく大喜び。所長はパソコンの前の椅子でものすごく嫌そうな顔をしていた。昨日佐加が来て、よくわからないことをたくさんしゃべって帰って行ったそうだ。
佐加と平岸さんのケンカなんて、恐ろしすぎるよ……。
所長は本当に怯えた顔でそう言った。それから、高谷君って知ってる?どんな人?と聞かれたので、体が弱くて体育は見学してて、ゲーセンに行ったくらいで力尽きて次の日休んでると言っておいた。一緒にいるとうるさくてウザいということは言わなかった。所長にあまりネガティブな言葉を聞かせないほうがいいような気がした。
体が弱いの?病名は?
聞いてないと私は答えた。特定の病名はなくて生まれつき体が弱いとしか聞いてないし、あの普段のふざけようからはサボりの気配しか感じられない。
体が弱いなら、この町の自然は良いかもしれないね。
所長はまた窓の外を見ていた。曇り空。さっきまで雨も降っていた。空気が湿っている。助手はコーヒーを、見たことのない高さのあるマグカップで飲んでいた。自分専用だろうか。黙っていれば本当に、かっこいい寄りだと思うのだけど、さっきのガールズファイトな叫びといい、しゃべり始めるとなんかいやらしい感じがする。今日も、
窓から女子高生が出てくるなんて天国なのに、久方は佐加が来るとガキみたいに怖がってたんだよね。
と、余計なことを私にばらしていた。所長はそういう態度に慣れているのか、無視して窓の外を見続けていた。私はその女子高生って言い方やめませんかと言ったのだけど、助手は『女子高生は女子高生だもんなあ』とかぼやきながら二階に逃げていった。
ね?嫌な奴でしょ?
所長が振り返って顔をしかめていた。私は黙って頷いた。




