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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年5月

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2016.5.11 水曜日 図書室 高谷修平

「今わかってることを整理すると、まず、久方にとりついているのは橋本旭、俺の先生は新道隆、二人は高校時代の親友」

 高谷修平がノートに二人の名前を書いて、間に『親友』と書き込んだ。

「おっさん橋本っていうんだ」

 佐加がノートを見ながら言った。隣にはヨギナミもいる。離れた場所にある図書室のカウンターには伊藤百合がいて、図書室でおしゃべりしてる三人に注意しようかどうか迷っている様子だ。

「死んだのいつ?」

「1980年」

「えっ!?そんな前?」

 佐加が叫んで、伊藤のにらむ視線に気づいて声を落とした。

「やっぱおっさんだったんだ!」

「うちら生まれてないよね?」

 ヨギナミも驚いたようだ。 

「俺ら誰も生まれてない。40年近く前だし」

「何で死んだの?」

「自殺って言われてるけど、本当は初島って女がビルの窓から突き落としたんだよ」

 佐加とヨギナミは黙っていた。

「それは、先生が初島から直接聞いたから間違いない。そうでしょ?」

 高谷が空中に向かって確認をした。佐加とヨギナミはそろってその方向を見たが、二人には高谷修平が『先生』と呼んでいるものが見えない。

「初島ってのは二人の同級生で、女性。卒業式に先生の前に現れて、「橋本は必ず蘇らせてみせるわ、どんな手を使ってでも」と言った」

 伊藤百合はカウンターでこの会話を聞きながら、ゲームの設定の話だろうかと思っていた。高谷はノートに、初島緑と書いた後、横に『久方創の母親』と書いた。

「マジ?」

 佐加が小声で聞いた。修平はうなずいた。

「だから、先生は、久方が橋本に取りつかれているのは初島緑が原因だと思ってる。ここからの話が俺も信じがたいんだけど、先生の話だと……」

 高谷が横に視線を走らせた。当然そこには何もない。

「この初島緑には変な能力があって、死んだ人の魂を呼びだして話せると本人が言ってたんだって。あ~俺、これ、自分で言ってて馬鹿らしいと思うんだけどさあ」

 だったら言わなきゃいいのにとカウンターの図書委員長は思っていた。佐加は、いいから話を続けろと言いたげにノートの初島という文字を指で叩いた。

「先生、つまり新道隆の話だと、初島は死んだ橋本や病気で亡くなった先生の魂を、自分の息子や俺に押し付けて蘇らせようとしたんじゃないかって。ほかに原因が考えられないって。だから俺たちは久方と初島を探してたんだけど」

「所長は何も知らなかったんでしょ」

 ヨギナミが言った。

「そうなんだよなあ~。ああ~」

 高谷が変な声を上げながら伸びをした。そろそろ注意したほうがいいだろうか、でもこの話題が何なのか気になる。図書委員長はまだ動かないことにした。

「しかも、母親の話をするとパニックになるって。虐待で接近禁止になってるらしいんだよ」

「虐待?」

「息子に他人になるように強制したんだから立派な虐待だろ」

「え~!?」

 佐加がまた大声を上げ、隣のヨギナミにつっつかれた。

「久方がおかしい原因があるとしたらたぶんそれだよ」

「おっさんもかわいそうだよね」

 佐加は本当に同情している顔をしていた。

「好きで取りついてるわけじゃないんでしょ?」

「そうらしいよ。俺にもどうにもならないって言ってたからね」

「かわいそう」

 佐加がまたつぶやいた。

「せめてうちらで友達やってようぜ、ねえ?」

 佐加がヨギナミを見て笑った。ヨギナミはどう答えていいかわからなかった。確かにかわいそうだけど信じがたい話だし、母親とこれ以上仲良くされるとどうなるか微妙だ。あれは幽霊で、久方本人ではないということになる。自分と仲良くしているのが幽霊だと母が知ったらどう思うだろう。

「よし、うち、これから研究所行って所長の様子見てくる」

 佐加が立ち上がって、ヨギナミと一緒に図書室を出て行った。高谷修平は大きくため息をついてノートを閉じて片づけると、カウンターの前に椅子を持って行って座り、

「お騒がせしましたぁ~」

 と、軽く伊藤に笑いかけた。

「いったい何の話をしてたの?ゲームの攻略?」

「ゲームの攻略に久方が出てくると思う?」

「佐加、久方さんの家に行くって言ってたでしょ?迷惑になってるんじゃない?」

「迷惑だったら向こうで追い出すでしょ。怖~い助手もいるみたいだし」

「図書室は話すところじゃないの。本借りる?」

「いや、いいよ、もう全部読んだし」

「全部読んだなんてありえない」

「いや、ほんとに全部読んだよ」

「わかりましたよ」

「信用してないね?」

「幽霊の話は何なの?あれも嘘でしょ?」

「いや、本当だよ。俺の隣に今先生がいる」

 伊藤は鼻で笑った。彼の隣を見ても誰もいない。今、図書室には二人以外誰もいないのだ。

「本当だよ」

 高谷の顔から笑いが消え、真剣になった。

「本当に、先生はいるんだ。久方の幽霊も。いずれわかるよ」

 伊藤は返事をせず、貸出履歴が何もない高谷の図書カードを黙って押し付けた。



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