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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年5月

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2016.5.3 火曜日 サキの日記

 あいにくの曇り空の下、平岸家はお花見に燃えていた。まずパパが先に町の指定公園に行って桜の下のいいスポットを確保。ママははりきってお正月クラスの重箱におかずを詰めまくり、私も手伝いながらちょっとだけつまみ食いし、高谷とあかねが敷物や水筒などを車に載せた。あかねは朝から気乗りしなさそうで、天気が暗いだの、風が冷たいだの、どうせ最後には酔っぱらいのジジイしか残らないだのと悪口を言いまくっていた。最後の一言は当たっていた。

 どんよりした天気の中でもエゾヤマザクラは花の根元のマゼンダ色が鮮やかで(私が知ってる桜とは色合いも雰囲気も違った)それなりに見ものだったんだろうけど、結局みんなの目当ては花からごはんと酒に移動し、一時間もしないうちにほぼ全ての席のおっさんが酔っぱらいと化して陽気に笑い始めた。私は一番地面に近い桜を見てぼーっとしていたら、一瞬意識が飛んだ。気が付いたら後ろに高谷がいて、こちらを変な目でじーっと見ていたので、気味が悪いと思って何?って強い声で聞いたら、


 今、サキの後ろにもう一人女の子が見えた。


 と真顔で言った。でもすぐににやけ笑いになって。


 桜の妖精かもね~!


 うざい。今日の高谷はひときわうざく感じた。食器並べたりやたらにこまめに動いているからかもしれない。私の食器に触るなと言いたくなったけどそれはさすがにひどいと思ったので黙っていた。あかねがその妖精発言を聞いて。


 インスピレーションがわいたわ。


 と言って、平岸ママに『帰る』と言って歩いて帰ってしまった。あかねが食べる予定だった唐揚げと煮物は私がもらった。ちょっと離れたところに杉浦や、町長つまりスマコンと保坂、奈良崎たちもいた。伊藤ちゃんまでいた。第二グループは本当に仲が良いのだ。


 ヨギナミは来ないんですかね?


 と、平岸パパに小声で聞いてみた。パパは酔っ払った赤い顔でちょっと悲しげな目をした。


 ゴールデンウィークはレストランが忙しいんじゃないかなあ。あさみさんには母さんがお弁当を届けているはずだよ。


 平岸ママの料理攻撃はヨギナミにまで届いていた。

 オッサンたち、奥様達の笑いやおしゃべりがあちこちから何重にも響く。天気は悪くなっていて、たまに小雨みたいなのが落ちてくるのを感じるが、撤退する人はほとんどいない。明日から天気がもっとひどくなる予想で、今日が花見のラストチャンスかもしれないと思っている人が多いらしい。いくら桜がきれいでも大雨の中で酒は飲めない。

 こんなにうるさいと所長は近づけないだろうなと思いながら、本当の理由は、町の人にうわさされるのが嫌だからなんじゃないか、それはヨギナミの母親も同じなんじゃないかとか、余計なことを考え始めて、せっかくの花見が台無しになりかけた。私は考えをできるだけ桜に向けるようにした。花弁が少しずつ敷物や重箱、私の上にも落ちてくる。無限のように雨のように落ちてくるけど、いつかは尽きる花弁。花が終わってから成長する葉。

 イメージだけは美しくあるけど、いい文章が出てこない。

 修平が具合悪いと言い出したので、平岸パパと一緒に歩いて帰ってきた。そういえば平岸パパ、車で来たのに酒飲んじゃってるけど大丈夫なんですかとママに聞いたら、


 幸福商会さんに運転代行を頼んであるの。そういえばサキちゃん、料理の残りを久方さんのところに持って行ってくれない?夕飯を作られる前に。


 いいですよと私は言った。でも、所長は出かけていていなかったし、助手の姿もなかった。ゴールデンウィークはここも休みだったりしないよなと思いながら、お弁当とメモをテーブルに残して歩いて帰った。

 


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