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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年4月

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2016.4.26 火曜日 サキの日記

 空は雲に覆われていて暗い。こういう日に人が全くいない草原を一人で歩くのはけっこう怖い。同じ天気でも都会ならなんとも思わないだろう。

 グループの班長会議というものがあって、杉浦、伊藤ちゃん、うちらからは自動であかねが出ていたらしい。そこで『カッパ君がクラスで浮いてない?』という話題が出てしまったそうだ。そして、よくわからない班長たちからの提案で、カッパこと高谷は高条、奈良崎、保坂と一緒に、今度ジンギスカンをすることになったとか。


 え?あいつ浮いてるように見えた?誰にでも話してるじゃん、うちも話しかけてるし。


 佐加から見ればそうだろう。私も奴が浮いてるとは思わなかった。まだ来てから一か月も経っていないし。班長達はこのクラスの何を見ているのだろう?『同じグループだから仲良くして』と言われるのもめんどくさい。

 帰り、暗い気配を怖がりながら研究所に行った。所長と、なぜかスマコンがいて、星座表のようなものをテーブルに広げていた。


 あら、長くお邪魔しすぎたかしら。


 スマコンは私を見るとすぐに表をたたんで、ニコッと笑って帰った。私とすれ違う時に、


 久方さんには、二人分の運勢が見えてよ。


 とささやいた。いや、空耳だったんだろうか。聞き返す前にスマコンは姿を消していた。


 町長のお嬢さんなんだよ。お父さんに言われて僕に会いに来たって言ってたけど本当かなあ。この町の人、けっこう好奇心で人の家に来るからね。サキ君は須磨さん知ってる?


 知ってるも何も同じクラスで、今日スマコンは風邪で休んでいたはずだ。


 あ~、それは黙っててあげたほうがいいよ。


 所長が苦笑いした。私も言いふらすつもりはない。休みたいときは誰にだってあるだろうし。佐加がここに来てなくてよかった。佐加はなぜかスマコンを嫌っているから、知ったらすぐに先生にばらしただろう。所長の星座を聞く前に、曇りの日の空気感の話をされて、そっちに夢中になってしまったので、結局所長が何座か聞くのを忘れてしまった。


 やっぱり気圧なのかなあ。色彩だけじゃないんだよね、重いのは。雨が降ったほうがまだすっきりするような気がするな。雨の音とか好き?


 少しなら雰囲気があっていいけど、水害のニュースを見ているせいか、激しく音がすると恐怖を感じると答えた。一度にわか雨というか集中豪雨に巻き込まれて、本当に死ぬほど怖かったことがあった。傘なんか役に立たなくて、横殴りに風まで吹いてきて、家にたどり着いたころにはもう半泣きだった。


 最近荒れてるもんね、地球。


 地球。地球なのか。所長はとうとう地球を語りだすのかと思ったら、おなかすいたと言われて地下倉庫に向かわれたので、今言わなくてもと思った。


 助手のメロンパンがあるぞ、食べちゃおう。


『メロンパン専門店』と書かれた袋を所長が持ってきた。いいんだろうか、あとで惨殺されたりしないんだろうかと思いつつもらった。専門店の割には普通のメロンパンだった。所長はメロンパンにかじりつく前に丸いほうをじっと見て、また地球に似てるとか言い出した。いや、地球食べられたら大変ですよ。地球という単語を一回思い出すと何でもそれっぽく見えるんだよねと、こんどは窓の外を見て今の大気も地球の雲っぽいよねとか言い出したので、そもそも私たち地球にいるんですよね?と突っ込んで笑った。


 そうか、僕は地球にいるのか。今気づいたような気がする。


 真面目に言われたので、メロンパンを取り上げて一度頭を叩いてあげようかと思った。



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