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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2015年8月
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2015.8.16 サキの日記

『所長』と私は、

『研究所』と私たちが呼んでいる廃屋の窓辺にいる。


 カフェのお一人様用の席みたいに、板一枚の長いテーブルが窓のさんにくっつき、

 古びた木材を雑に釘打ちした椅子がいくつかある。



 理由がなくてもいいんじゃない。



 所長が窓の外に目をやりながら言う。畑には所長が趣味で植えた野菜が実り、そばかすの多い女の子が勝手に収穫している。あかねのクラスメートらしいが名前を知らない。髪は茶色く、クセなのかパーマなのか、目に見えてうねっている。白いシャツに淡いブルージーンズ、100均に売ってそうな麦わら帽子。服にはこだわらなさそうな子。




 僕も答えられない。悩む。この町に来たばかりの時、どうしてここに来たかよく聞かれて考えてたけど、


 軽く笑い声をあげてこう続く。


 未だにわからない。もしかしたら、ヨギナミに食糧支援をさせるために、変人の神に呼ばれたのかもね。



 なぜここに来たのか。

 上手く答えられなかったから『言わなくていいよ』と気をつかってくれたわけだ。

 理由はある。

 だけど、一言では表現できない。

 あまりにもたくさんの出来事、思考、幻想、悲劇、憎悪、嘲笑、すべてが混ざりあって最悪テイストのスムージーが私の脳内に精製され、それを自分の愚かさや不安とともに時間をかけて飲み干してしまった私の脳。

 簡単には解毒できそうにない。



 窓の外では、ソバカス顔のヨギナミがこちらに気づき、手を振っていた。

 でも、こちらには来ずに畑の向こうの茂みに去った。



 所長はとても小柄で、髪は金髪に近い茶色。

 20代後半だけど、へたしたら小学生にも見えるくらい体が小さい。

 なぜかいつも白衣を上着がわりに着て、町の人には『所長』と呼ばれる。

 かつては病院だった廃屋の一角を改装して、

『助手』と一緒に暮らしているが、あいにくお盆休みで留守だとか。




 どこから説明していいかわからないくらい、この『所長』と『研究所』にはいろいろ不思議な所がある。


 とりあえず説明すると、この町には店どころか建物すらほとんどなく、

 来てみたはいいが暇をもて余した私は、考え事をしながら草原をむやみやたらに歩いていた。

 次から次へと、悪いことが浮かんでくる。

 誰かに言われた悪口の大合唱。

 誰かにされたひどい仕打ちの数々。

 何より、自分がやってきた愚かすぎる言動。

 なんてことだろう。せっかくこんなに遠くまで来たのに、来る前と同じことをぐるぐると一曲リピートし始めた。

 私の頭は生まれつきイカれてる。

 怒りと恐怖と混乱と歩く早さは見事に比例し、全く知らない草原の道を、やたらに乱暴な足取りで歩いていた。






 気がついたら、道に迷っていた。





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