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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年4月

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2016.4.13 水曜日 サキの日記

 学校帰りに研究所へ行ったら、保坂と奈良崎がいた。保坂が、


 困ってるときに助けてもらったんで。


 お礼を言いに来たそうだ。ところが所長は二人を見るなり顔色が悪くなり、気分が悪いからもう寝ると言って奥へ引っ込んでしまったそうだ。


 金髪のこえー奴がコーヒーでも飲んでけって言ってこれ出して来ていなくなって俺ら放置なんだけど。


 マグカップを持ち上げながら奈良崎が言った。私も男子二人と放置されては困るので、二階の所長の部屋に行ってみた。ベッドの毛布が人の形に膨らんでいた。どうしたんですかと聞いてみたら、かすかに、


 頭痛がするから寝かせて。


 という声が帰ってきた。私は部屋を出るとき、相変わらず張ってあるフェザーザップのポスターを見た。真ん中の修二にこちらを見られているような気がした。なぜ私はこのポスターがこんなにも気になるんだろう?

 食糧庫からビスケットを持ってきて二人に出したら。


 お前はここの何なの?奥様?


 と奈良崎にからかわれたので、軽く去年の夏休みの話をした。メガネでしゃべり方がなまっていて真面目そうな保坂と、モデルみたいな見た目で軽い標準語を離す奈良崎。不思議だけどお似合いの組み合わせだ。あかねの妄想の被害にあったことない?と聞いてみたら二人そろって嫌な顔をした後、『あいつは頭がおかしいべ』『犯罪だぞ犯罪』と二人して言い出した、


 だって俺転校生二人男子って聞いたときに真っ先に注意しとかなきゃって思ったもん。『平岸に気をつけろ!とにかく気をつけろ!』って。杉浦くらいだよあの変態オタクと真っ向から勝負できるのは。ていうか杉浦も頭おかしいんだって。


 奈良崎はその後、杉浦に難しい本を勧められて一行もわからなかったので少年マガジンを代わりに押し付けようとしたら『マンガばかり読むから君はバカなんだ』とダイレクトに言われたと言う話をした。私も実は漫画が苦手で、杉浦と考え方が近かったので、なんとなく薄笑いしてその場をかわした。中高生はみんな漫画が好きだと思ってる大人や同級生に、私は今までさんざん手こずってきたのだ。たぶん杉浦もそうなのだろう。

 保坂が、ヨギナミからここの話を聞いたことがあると言った。


 女の子だけでここに来るのはあぶないべ。男しかいないんだべここ。


 何か心配しているようだ。佐加も来てるよと言ったら、二人そろって『佐加はいいべ別に』と言った。なんでやねん。


 佐加は誰とでも仲良くなるもんな~。俺、知らない人の家に行ってそこに佐加がいても全然不思議に思わないもん。あ、仲良くなったんですね~で終了。


 奈良崎が言い、保坂もそうだべとうなずいた。二人はその後ビスケットを二枚くらいかじってから『日誌に書くことなかったらここのことを書けばいいべ。先生も所長のことは気にしてるし』『自分のことより他人のことのほうが書きやすいよな』『奈良崎はいっつも俺んちの悪口書いてるべ』『悪口じゃねえよ心配だから先生に報告してるんだよ』という話をして、帰った。私は二人分のマグカップを片付けようかどうか迷い、結局キッチンに持って行って洗った。最近見かけないと思ったら、ポット君がキッチンの片隅で止まっていた。顔には何も表示されていない。壊れてしまったのだろうか。なんとなく怖い気がして、私はそのあと残りのビスケットを持ってすぐに自分の部屋に帰り、部屋で一気に食べてしまった。夕飯があまり入らなくて平岸ママに間食したでしょ、と目をつけられた……ような気がする。

 所長は保坂に何をしたのだろう?頭痛は明日には治るだろうか。保坂が言っていた『先生が所長を気にしている』というのは何だろう?生徒とかかわってるから心配なのか。そのうち聞かれたらなんて答えればいいんだろう。お友達です、で済むんだろうか。

 ポット君はどうしたのか所長にメールで聞いてみたら、


 急に動かなくなっちゃって、作った友達に修理を頼んでるんだけど、向こうも忙しいらしくてなかなか出せなくて。


 と返事が来た。私はポット君があのまま廃墟のような建物の一部になって、ホラー映画のセットみたいにどす黒くなるところを想像した。ちょっと怖い。


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