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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年4月

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2016.4.10 日曜日 サキの日記

 店が少ないところに住んでいる人にとっては、大きなスーパーに行くことが娯楽になる。出かける場所が食料品店しかない人にとってはそこがアミューズメントパークだ。デートスポットはフードコートやゲームコーナ、専門店街。動画や映画を見るように、いろんな店の商品やディスプレイを見るだけ見て楽しむ。買って帰ると、店で見たときより興味が薄れると平岸ママが言って、遠回しに無駄遣いしないようにくぎを刺した。

 私は人の多さにうんざりしながら、座れそうなベンチを探していた。でもだいたい埋まってる。このあたり一帯の人口がみんな集まっちゃったんじゃないかと思うくらい、店と店の間の通路の人口密度が高い。

 あかねと平岸ママは服を見に行ったまましばらく行方不明。私はそれに付き合う気にならず、平岸パパと一緒にやっと見つけた席に並んで座った。その時に所長の話を聞いた。松井カフェでたまに会うそうだ。


 久方さんは、突然別な人みたいになることがあるよなあ。


 植物の話をするときとか、風景の話になった時ですよね、と言ったらパパは、


 そうじゃないんだけどね。


 と言って、ちょっと苦笑いした後、


 久方さんはどうも精神不安定なところがあるらしくて、それで田舎で静養することになって、ご両親が心配してあの助手をつけたようなんだよ。こんな田舎に来たのはやっぱり人を避けるためなのかなあ。


 と言った。そのあと平岸パパはしばらく反抗期の娘の愚痴を言って、それから、


 久方さんは、たまに別な人みたいになるんだよなあ。


 ひとり言のように言った。どうしたんだろう?うっかり散歩中に捕まって、夕日の美しさとか、日光にきらめく葉っぱのすばらしさについて延々と語られたりしたんだろうか?私は所長の部屋にスケッチブックがあったことを思い出し、所長が絵を描いている所を見たことがありますかと聞いてみた。平岸パパはないなあと言った。


 変わった人なんだよなあ。


 とまたつぶやいた頃、あかねと平岸ママが大きな袋を抱えて戻ってきた。

 レストラン街をさんざんうろついて、中華が食べたいママとオリーブオイルを摂取したい(健康のためなのかダイエットなのか、理由はよくわからない)あかねが勧めるイタリアンでけっこうな時間もめて、結局どうなったか、平岸パパとママは仲良く中華に行き、私とあかねがイタリアンに行くことになった。昼食一家離散状態。夫婦は仲良しだけど。


 ママはあたしを太らせようとしてんのよ!娘のほうが美しいからって嫉妬しないでほしいわ!


 それは違うんじゃないと言ったら、あかねに怖い目で睨まれたので、ピザおいしい以外の言葉を発することができなくなった。北海道産なんとかチーズ使用のピザは美味しいけど、値段がけっこう高い。北海道ってついたら高くしてもよいみたいなのがあるんだろうか。

 あかねは味が付いているようには見えない色のないパスタを、ラーメンでもすするかのように勢いよく食べていた。食べるのが早すぎて健康にもダイエットにも悪そうだったけど、また睨まれたら怖いから言うのはやめておいた。

 帰りの車では、全員無言だった。

 帰ると、高谷修平が平岸家のテレビの間にいて、


 なんで俺だけ置いてくんすか!?


 と文句を言ったが、私は『あんたが来たら私が行かないから』とはっきり言って、うしろでからかうように何か言うのを無視して、自分の部屋に戻ろうとした。そしたら高谷修平がアパートまでついてきて、


 ねえ、研究所ってさ、何を研究してんの?


 とか、


 あだ名で所長って呼ばれてるみたいだけど、実際は何もしてないみたいだよね。危ない人じゃないの?


 とにかくむかつく質問ばかりされたので、無視してドアを乱暴に閉めた。本当にこいつうざい。

 母から今度出るホラードラマの仮画像が来た。やっぱりなあと思って私はスマホに頭をぶつけた。

 頭から二本の角を生やし、牙をむき出しにした悪霊みたいな母が、ろうそくを持って不気味な微笑を浮かべていた。下のほうには怯えるおっさん俳優の顔も。

 ベタすぎて言葉もありません、とメールしておいた。返事は来なかった。すねてしまったのかもしれない。



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