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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年4月

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2016.4.10 日曜日 ヨギナミの家

 ヨギナミがバイト先に向かう道の途中で、例の別人とすれ違った。歩き方と目つきで所長ではないとわかった。レストランで春のスイーツや特別メニューを運んだりして、世の中は浮かれているなあと思った。ヨギナミの現実は、花咲く春になっても変わらない。母の具合はあまり良くならず、経済状況は常にギリギリ。平岸ママが無理やり押し付けるように持ってくる野菜や作りすぎの料理が、実はものすごくありがたい。


 奈美ちゃん、進路どうするの?ここで働くの?


 顔見知りの客に無邪気に聞かれて、さあ、どうしようかなあとごまかして店の奥に引っ込んだ。学生を見るとすぐ未来は明るいとか、まだ若いんだからと言う人が多いが、ヨギナミはその『未来が明るい学生』に自分が入っているとはどうしても思えなかった。悪気はないのだろうけど胸がざわつく。自分の未来って何だろう?ずっとアルバイトしながらあの気難しい母の面倒を見続けることだろうか?それって明るい未来って言えないと思わない?今度佐加にでも聞いてみようかと思った。きっと別な楽しいことを持ち出して自分を慰めようとするだろうけど。

 暗い気持ちで家に帰ったら、もう別人はいなくなっていた。母に聞くと、二人でうどんを煮て食べたわと上機嫌で髪をとかしながら言っていた。母が身なりに気を遣うのを、ヨギナミは久しぶりに見たような気がした。しかし、母がそんな風にうれしそうでも、ヨギナミは喜ぶどころか、かえって不安になる。あの不思議な人との関係はどうなっているのだろう?

 これ以上進まれたら困るんじゃないだろうか、私も、所長も。

 転校してきた新橋早紀は、所長のもう一人については気づいてないのだろうか?

 でも、本の話をすると言っていた。別人が古本屋の息子であることを考えると、もしかしたら彼女が会っているのも所長ではなく別人ではないか?

 聞かなければいけないと思ったけど、今のところヨギナミにはその勇気も余裕もない。今日は疲れた。そのうち佐加かあかねが聞き出すだろうと思いながら、ヨギナミは深い眠りに落ちた。


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