表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年3月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

270/1131

2016.3.12 研究所


 何も考えずに眠るなんて、私には無理なんでスよ。


 新橋早紀の、いつもよりは抑えめの低い声が、久方の耳元に響く。


 寝ようと思って電気消して横になるじゃないでスか。そこからなんでスよ問題は。

 暗いじゃないでスか。

 でも、活動しなきゃいけない昼と違って安全な状態で視界から刺激が減るじゃないでスか。邪魔されずに自分の世界に入り浸ってしまえるんでス。だから眠れないんでス。もったいなくて。


 早紀の言う安全な状態には縁がない。何をしていても別人に意識を奪われる可能性がある。眠っている間すら。それでも、言いたいことはわかる。安全に考えられる時間と機会が与えられていたら、眠らずに考えたい。色々なことを。今は生きているのが辛くて、すぐに眠ってしまいたいことのほうが多いのだが。


 一瞬しか見えないこととか、感じ取れないことを大事にしていたいんでスよ。所長が空とか雲の中に毎日違うものを見ているのと同じで、私も見てまスよ。街中とか家の中とか、スケール小さいし、あんまりうまく言えないでスが。


 自分は常に意識が曖昧で、景色に感動はしても、何かをちゃんと見ているかと言われると、急に自信がなくなる。

 本当は、何も見えていないのではないかと。


 所長。大事なのは、雲や街並みそのものではなくて、私たちがそこから何を感じたり得たりしたかでス。みんなそういうものを主観的だとかどうでもいいとか言うけど、私は大事にしたいんでスよ。みんなはまわりに追いつくために速足で道を通り抜けていくけど、雑草が花を咲かせていたら、ちゃんと気づいて立ち止まりたい。そういう人が一人か二人はいてもいいと思うンでス。


 今日の早紀は、いつもよりさらに大人ぶっているように思えた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ