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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年3月

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2016.3.8 サキの日記


 前に誰かが書いていた。

 現実をまねて小説を書くのではない。

 現実の人が小説をまねて行動するのだと。

 本も映画もテレビもない時代には、もしかしたら、ドラマチックな展開とか、過剰な恋愛表現は必要なかったのかもしれない。最古の小説、源氏物語だって、静かに思いを募らせて文を送って女のところに通ってセックス?をして(具体的に書いてないけど)……を風雅に書いているだけ。その前は?文学や文化と関係のない昔の貧しい人々は、テレビドラマやブログの記事で男女のことなんか学ばなかったし、『成功した金持ちライフ』を本やセミナーで知ることもない。『これが普通』『これがすばらしい』『こうなるべき』という押し付けがない時代も、もしかしたらあったのだろうか。

 そういうものがなかった時代の人間関係がどんなだったか、私には想像すらできない。きっとそんな昔だと逆に身分制度があって、個人の生き方に選択の余地はなかったのだろう。いつの時代も、私たちは何かに行動を縛られて、あるいは、植え付けられているみたいだ。


 私はそういうのを、

 根こそぎ見つけて引っこ抜いて投げ捨てたい。


『映画のような恋』って言葉があったわネ。

 アタシは絶対そんな脚本書かないけど!!


 カントクがそう言ってなぜか鼻高々って感じに上に顔をつきだしてホホホと笑った。生誕記念の年につき、シェイクスピアにあこがれる少年だったカントクは、今年は本当にテンションが高そう。


 サキちゃんが二年もいないなんて残念だワ。

 この記念すべき時期に。


 私も今朝まではそう思っていた。

 でも私は、この愛すべきおバカ劇団は自分の居場所じゃないと、今日ほど思い知らされたことはなかった。

 私はもう、バカのかわいいバカ娘ではいられない歳になっていた。あのいやらしい『女子高生』って言葉のイメージのように『16歳』『エロい』『隙あらばヤれそう』は言い過ぎかもしれないけど、そういう目で私を見始める劇団員やスタッフが出てきた。リオみたいな、あるいは男子に興味津々なクラスの子みたいのなら、逆に利用していい思いができたのかもしれない。


 でも、私は嫌だった。

 本当に嫌だった。


 何人かの昔馴染みのおじさんたちは、まだ私をバカ娘扱いしてくれたけど、新しく入ってきた若手は、私と同世代か、下手したら年下だった。中学生が見学に来てたりもする。『あの二宮由希のお嬢様』という態度で接してくるので、私はどうしていいかわからなくなる。かといって、新人が大先輩の娘に(どんなにバカだったとしても)いきなりタメで親しげに話すのも難しいのだろう。


 私は、相手に親しみがないと途方に暮れてしまう。

 弱い。


 カントクは私の気持ちを知ってか知らずか、旅のはなむけにこんなことを言っていた。


 田舎の頭パーな男とは絶対に寝ちゃだめよ!優しそうに見えてもあの年頃は、みんな突っ込んで抜くことしか考えてないんだからネ。頭良さそうな男子ほど脳内はポルノ一色。田舎なんて特にそうヨ。少女漫画みたいな一途な男子なんて、漫画家の妄想の中にしかいないんだから!そこんとこ忘れちゃダメ!性欲に目覚めたらアタシに電話しなさい!安全で口の堅い男を紹介するワ!新橋には相談しちゃだめ!!


 ありがたい助言なのか、セクハラの罪で右ストレートを食らわせるべきか。

 私には判断がつかなかった。



 帰り道、ふらっと入ったパン屋でサンドイッチを衝動買いした。コンビニだったら200円でも買わないのに。350円が激安に見えた。空港のは700円くらいしたっけ。肉の厚さが何倍も違うんだろうけど。

 何書いてるんだかわからなくなってきたから今日は疲れてるだと思う。なのにこんな時間まで起きているのはなぜだろう。



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