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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年2月

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2016.2.27 ヨギナミの家



 沖縄行きてぇー!!



 小さなおっさんが佐加と二人で盛り上がっている。来たときは元気がなかったのに、母の居場所がわかったとたん機嫌がよくなり、『ダブルラーメン食べる?』と言ったら予想の3倍派手に喜び、未だにテンションが落ちない。昼過ぎに来た佐加は、最近はまっている、Youtubeで見た女子高生二人組のダンスを真似ておっさんに付き合わせようとしていた(学校ではあかねとやっていた)が、嫌がられたので沖縄行きに話題を戻した。



 ヨギナミも沖縄行っちゃえば?

 どーせもうすぐ春休み来るしさー。

 うちもついてくから!

 おっさんも来る?



 学校をサボっちゃダメだとか、自分が行きたいだけだろうなどと佐加に言っても無駄なのは、ヨギナミは長いつきあいでよくわかっている。でも、『沖縄』という単語で二人ほど盛り上がれない。母と祖母はものすごく仲が悪い。実際ケンカして飛び出しているのだから、帰って来たら機嫌が悪いに決まっている。その母の相手をするのが自分の役目だと思うと、ひたすら憂鬱だ。それに、飛行機代を出したのは誰か、それを想像するとおぞましい。なぜ母はこんなことを平気でするのか、ヨギナミには全く理解できない。



 俺は行けねえって。

 創がびっくりするだろ?

 研究所で寝て、朝目覚めたらいきなり夏みたいに暑くて、ヤシの木みたいのが外に生えてんだぞ。びっくりしすぎて倒れるぞ。



 佐加はその答えが不満だったようだ。『いいじゃん遊べるし楽しいんだからさー』といつもの調子だ。



 てかさー、所長ってなんであんなにしゃべんないの?

 なんか怯えてる感じしね?

 あかねのことも怖がってるみたいだしさー。



 平岸あかねを怖がらない男子など見たことがない。ヨギナミがそう思っておっさんを見たら、やはり嫌そうに眉間にシワをよせて目を横にそらしていた。怖がっているというより、名前を聞くのがひたすら不快なようだ。



 俺だって大して変わんねえよ。



 当たり前のことのように、おっさんは言った。



 だれだってそうじゃないの?

 みんないっぱしの人間のふりを必死でやってるけど、

 裏を返せばみんな大して変わんねえよ。

 知らずに何かしくじったんじゃないかって、

 どっかで怯えてる。



 佐加はそれを聞いてしばしキョトンとしていた。『怯える』という言葉にピンと来ない性格なのかもしれない。



 所長って今どこにいんの?寝ちゃってんの?

 所長が起きてるときっておっさん、どこにいんの?



 佐加が無邪気に尋ねた。ヨギナミも聞いてみたい質問だった。

 おっさんは二人を交互に見て、左目の上辺りを指でさわっていた。話してもいいものか、迷っているようにも見えた。



 創は、今も後ろにいる。



 ヨギナミと佐加は反射で後ろを見たが、もちろん誰もいない。



 お前らには見えねえよ。

 創が動いてるときは俺が後ろにいて、

 あいつがやってることを見てる。

 創も常に俺の後ろにいる。

 でも、あいつはなんにも覚えてないんだ。

 俺がここに来てることも、よそで何をしてるかも。

 ただ、悪霊を強烈に恨んでる。

 それだけだ。

 話しかけても通じない。

 仕方ないけどな。



 おっさんは急に立ち上がった。

 自分は本来ここにいるべきではないと、急に気づいたのかもしれない。



 ラーメンごちそうさん。



 それだけ、軽く手をふって呟くと、背を向けたまま出ていってしまった。



 なんかさー、

 かわいそーじゃね?

 なんとかならないのかな。

 あたし所長に聞いてみようかなー。

 うちらと一緒にいたの覚えてね?ってさー。


 佐加は本当に悲しそうな顔をしていた。ヨギナミもそれは同じだが、『聞きに行こうかなー』を実行されたら困るなあとも思っていた。あとでモメて気まずくなったら嫌だからだ。


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