2015.9.22 研究所
久方創は窓辺のカウンターでぼんやりと窓の外を眺めながら、先ほど見た夢について考えていた。
同じ二人の夢をよく見る。
女子高生風の女の子と幼い頃の自分が、どこかの川辺にたたずんでいる夢だ。あまりに何度も同じ夢をみるので、これは本当にあったことに違いないと考えるようになった。
それとも、
『もう一人』の記憶だろうか?
しばらく現れなかったのに、また思い出してしまった。いったんこの問題については忘れることにした。
2階から、助手の結城が弾くピアノの音が聞こえている。ろくに仕事はなく、雑用をする気もなく、まわりに建物も住人もいない田舎であることをいいことに、月光の第三楽章を乱暴に叩き続けている。日光があふれる爽やかな朝には全く合っていない選曲だと思った。先日も、風情のある月夜だと思って夜空に見とれているところに、華々しいファンファーレをかき鳴らされた(創の知らない曲だったが、誰のなんという曲か聞きに行く気力もなくなるほどその日に不釣り合いな音だった)
何でも初見で弾ける技術があるにもかかわらずプロのピアニストになれないのは、この鈍感な乱暴さのせいだろう。
パソコンを見る。サキからは父親の劇団について書かれたメールが届いていた。学校に行かなくなって時間をもて余しているのか、最近よく思いついたことを送ってくる。
彼女は自分を気味悪くは思わないらしい。子供に見えるほど小柄なせいで、今まで大概の人間から見下されているような、不気味がられているような視線を感じてきた。逆に、いくつになっても少年らしい見た目からか、ゆるキャラのような可愛がり方をする人も女性には多かった。サキもたぶんそうだろう。どちらにせよ大人として扱われていないからあまり愉快ではないが、少なくとも不審者だと思われていないようだからまだいいだろう。
今のところは。
久方創は横目でちらりと、額に飾られている女性のパステル画を見た。自分のもとから去った人を思い出しながら。
これから自分は何人の人に出合い、何人の人間に拒絶されるのだろう。
今までの人生からは、あまり良い答えは期待できそうにない。
久方の養父母に引き取られる前の記憶がほとんどないことも、何か自分に影を落としている気がする。あの夢に出てくる女の子が見つかれば、何かわかるかもしれない。
サキはよく似ていた。
でも、年齢が下だから、自分が子供の時は生まれていなかったはずだ。
結局、忘れようとした問題に思考が戻っていった。
そのうち助手が降りてきて、
さっき平岸んとこの子がまた窓の外にいたぞ?
と言って不快に顔を歪めた。
平岸あかねの趣味を多少知っている『所長』は、黙って苦笑いすることしかできない。




