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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年2月

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2016.2.19 サキの日記



 所長は雪かき疲れしてて、今日は特に筋肉痛がひどいらしい。



 でも、昨日はそんなに動いた記憶ないんだよね。

 3日くらい前のが今来てるのかも。年かなあ。



 見た目のせいか、私は所長が一回りは年上だということをよく忘れる。助手はあいかわらず手伝う気がないらしい。またポット君にボコボコにしてもらえばいいですよと言っといた。


 バカに雪かきの話したら、



 今年は雪少ないってばあさんが言ってたけどなあ。そんなに疲れるまで雪かきする必要あんの?まあ、内陸の方は気候違うからわかんないか。



 と首をかしげていた。

 雪かき以外に辛いことがあるのかもしれない。




 スコット・ペックの『愛と心理療法』に、人間の愛とペットをかわいがることの違いが説明されている。例えば、戦後、日本人やイタリア人の女性と結婚したアメリカ兵。言葉がよくわからず、従順であるうちは可愛がるが、成長して英語が話せるようになり、自分と異なった意見や目的が相手にあるとわかったとたん、結婚は破綻していった。子育てだってそう。小さいうちだけ可愛がり、反抗する年齢になると興味を失う親がいる。あるいは、可愛がったり喜ばせたりするだけでなく、分別を働かせて叱ったり対抗したりしなければいけないこともあるのに、過保護に甘やかすことしかできないとか。本当の愛は、相手が自分と違っても認めて、成長を喜ぶこと。本能だけではない思慮や知性、苦しい決断が、人間の愛には必要。

『かわいい』が蔓延する日本はどうなんだろう。

 恋愛シュミレーションなんて、都合のいいペット愛の典型な気がする。

 だから、バカが私を小さい女の子みたいに可愛がろうとすると、ムカついて右ストレートしたくなるのだ。

 そういえば、通販カタログや広告の家族イメージに写っているのも、たいてい小さな子供だ。そこに反抗期の不良高校生とか、妙子な40代の娘が写ってたら、家族のほんわりあたたかな感じが台無しに。つまり、世の中が求めてる家族のイメージが幼稚で画一的ってことじゃない?今はゲイとかトランスセクシャルとかオカマなストレートもいるし、家族じゃなくても共同生活してたり、生き方が多様化してるのに、広告のイメージはちっとも多様化してない。


 もともとかわいらしいもの、つまり、本能のまま楽に愛せるものだけを可愛がり、そこから先には辛いし面倒だから進みたくない……ペットやゆるキャラならともかく、生きた人間相手ではいつまでもそこに留まるのは無理がある。

 生きている人間は変わり続けるから。

 いつまでも同じではいられないから。

 大昔に死んだ作家とか、実在しない架空のキャラのほうが、生きた人間より親しみやすいと思ってしまうことがあるのもそれだ。死んだ人は『お前の性格が問題だ』『痩せろ、クッキー20枚も食うな』とは言わないし。要するに一方的に接するだけだから楽なんだ。

 大人になっても年寄りになってもかわいさを求めるって、そういう意味では不自然だし、成長を妨げる気がする。高齢化が進んで、いくつになっても成長したい人が多い現代はなおさら。

 もちろんかわいいのが悪いとは言わないし、わたしもかわいい雑貨は好きだけど。

 聞きにくいけど、所長みたいに見た目がかわいらしいと、逆にペット愛みたいな人から逃れにくいんじゃないかな。(現にあかねの妄想の犠牲になってるし)もしかしたら、成長したい人はあまり見た目をかわいくしない方がいいのかも、と、かわいくない自分を言い訳してみた。



 うちのバカは今、演劇ワークショップを楽しみにしている。何を血迷ったのか知らないが、講師を勤めるそうだ。かわいい女の子が表紙の案内を見てにやけている顔が、もう既に迷惑行為。いったい何を教えにいくつもりなのか。こんなバカに来られては、スタッフも生徒も困るに違いない。


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