2016.2.2 研究所
助手の方に、今度私が会いに行くって伝えてね。
クローゼットから。
妙子
久方は、スマホの画面を見つめたまま固まっていた。知らないアドレスからのメールだ。サキのいたずらだろうか。それとも迷惑メールだろうか。一応本人に聞いてみることにした。メールを送ってしばらくしてから、直接かけてきた。
すみまセン。それはうちの母でス。
本人に確認したら白状したので叱っておきまシタ。
あの人、悪ふざけが大好きなンでスよ。
笑わないくせに、真顔でふざけたことばかりするンでス。こないだのクローゼットなんか典型でスよ。早く大人になれって言いたくなりまス。
早紀はいたずらっ子の母親のような口ぶりでそう言ってから、ドラマを見て動揺し、うっかりメールを母に転送してしまったと謝罪し、またなんか送ってきたら拒否設定しろと言ってから通話を切った。
つまりこれは、サキ君のお母さんからのメール?
久方はしばし動揺し、返事をしたほうがいいのか、何か深い意味があるのではと心配しながら、最終的には『妙子のメール』を助手に転送した。話すきっかけにしようと思っただけなのだが、
キャアアアアアア!!
蜘蛛やネズミの時と同じくらい、凄まじい悲鳴が聞こえた。久方は天井を見上げながら、
『絹を裂くような悲鳴』って、こういうのかなあ。
とぼんやり考えた。助手はすぐ一階に降りてきた。面白いくらい怯えていたので、久方は真相を話さず『なんだろうねえ、ほんとに来るのかなあ』ととぼけながら、上に戻りたがらずに一階をうろうろしている助手を、心で笑っていた。
今日はもう、ピアノを聴かずに済みそうだ。




