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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年2月

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2016.2.1 サキの日記


 プリーストリーの『夜の来訪者』の最初のほうに、

『ダンディと言うにはだいぶ男っぽすぎるが』

 という部分があって、あれっと思って辞書検索したら、

『男性の服装や態度がおしゃれで洗練されていること。また、そのような男性』

 とあった。

 私はなぜかマリリン・モンローを思い出した。究極に『女らしい』けど『洗練』されているように見えるかは微妙だ。ボクシングの選手は男らしいけど『おしゃれで洗練』とはイメージが違う。らしさも行きすぎるより抑制がきいたほうが知的に見えるのかもしれない。それが良いかどうかは別として。

 実はマリリンは骨格の専門書を読める才女だったし、ボクシングの選手の中にもプライベートではおしゃれで洗練されたダンディがいるかもしれない。

 そんな考え事したせいで、薄い岩波文庫を読み終えるのに夜中までかかった。何時間ダンディを妄想してたんだ、私は。



 工場主が娘の婚約を祝っているときに、警部が来て、工場を解雇された女性が自殺したと告げる。解雇された理由は、賃上げを要求したから。ただそれだけ。

 実は、工場長だけでなく、他の家族も全員、彼女の死に関わっていたことがわかる。そのあと、『えっ!?何それ!?』みたいなどんでん返しが2回。人間がいかに自分の失敗から学ばず、都合の悪いことを忘れようとするか、この夫婦を見ているとよくわかる。

『そういう女の子は安い労働力じゃないわ―彼女たちは人間よ』

 という娘のセリフは、現代日本の非正規雇用を連想させる。舞台は1912年のイギリス。100年以上前。実際に書かれたのは1946年。時代が変わっても、人の考えはあまり変わらないのかもしれない。


 高校を上手く卒業して、大学にも行けたと都合よく仮定して、私は就職できるんだろうか。仕事する能力があるとは思えないし、かといって、バカとカントクに演劇に引きずり込まれるのも、なんか違う気がする。脚本なら書けるかもだけど、きっと、簡単ではないだろう。私の文章はダラダラと長いし『何字以内でまとめろ』という問題が嫌いだ。プリーストリーみたいに、薄い一冊にいろんな問題をまとめあげる才能は、私にはない。



 どうしようかなあ。

 大学を出る年って22才?あと6年?そんな先のことはわからない。4月に行く秋倉だってどうなるかわからないのに。入ったとたんいじめられてまた逃げ帰ることになったらどうしよう。河合先生は生徒を信頼してくれって言ってたけど、あかねは変態だし、その変態から聞いたクラスの話はめちゃくちゃだし、所長と助手はあいかわらずラブラブなことになってるし。

 とりあえず、所長に『夜の来訪者』を勧めるメールを送って、寝ることにした。心配なのは、うちのバカがこの作品を『現代の日本』に置き換えて『お笑い』にしようと今部屋にこもって、わざとらしく原稿用紙まで大量購入して何かを書きまくっていることだ。年に一度はそういう無駄なことをする。私は明日の朝起きることを知っている。バカの部屋が書き損じの丸まった紙でいっぱいになり、肝心の原稿はせいぜい3枚くらいしか書かれず、寝坊したバカは慌ててうちを飛び出し、私が暇潰しに後片付けをする羽目に……いや、明日は絶対に片付けないで放置しよう。前もほっといたらあまりにも長く帰ってこなかったからつい片付けちゃったけど、今回は絶対に絶対に絶対に!!奴の部屋には入らないことにした。塾が午前だから、早めに家をでて、なるべく遅くまで帰らないようにしよう。失敗から学ばなくては。ていうかうちのバカはいつになったら、原稿用紙を買うのは資源の無駄だと気づくんだろう?部屋のパソコンは何のためにあるの?

 奴は、アーサー・バーリングより失敗に学べないバカなのだ。


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