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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年1月

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2016.1.25 研究所



 間に合わない。



 久方は、パソコンと書類を交互に見て慌てていた。昨日仕上げるつもりだった作業が、乗っ取られて意識を失ってしまったために終わらなかったからだ。



 別にいいだろ、それを見越して何日も早く期限切ってんだろ?



 手伝う知識も意欲もなく、助手は後ろでだらけていた。久方の『間に合わない』にはもう慣れている。それは正確に言うと『一週間前に終わるはずだったのに3日前に終わった』という意味だ。つまり、納品先にとっても助手にとってもどうでもいい話なのである。

 しかし、久方にとっては大問題だ。



 昨日あいつが出てこなければ今ごろ終わってたのに。

 そもそもどうして僕がここにいるのかって……。



 助手の白けた視線に気づいたのか、別人のせいにしても現実は変わらないことに気づいたのか、久方はいったん口を閉じて作業に没頭したかに見えた。

 しかし、数分後、また始まった。



 みんな僕なんか邪魔なんだ。

 キレて暴れるような危険人物だと思ってるんだ。

 だから遠くで書類書かせとけばいいと思ってるんだ……。



 涙声のいじけた愚痴はまだまだ続くのだが、助手はまともに聞いていない。慰めても聞く耳をもたないことを、経験で学んでいるからだ。何も遅れていなければ問題も何も起きていないのに、何を落ち込む必要があるのか、全く理解できない。普段は必要なことも話せないのに、自分の不幸を嘆くときだけ妙に口が回るのも変だ。本当はみんなと一緒に働きたいと、久方は毎回のように言うのだが、それにしては人を避けて、せっかく来てくれる女子高生(ただし、変態が混じっているが)も怖がり、神戸の親や、札幌の友人からの仕事の誘いも断る。本当はまともに働く気なんかないのではないかと、助手は疑っていた。そして肝心の、久方自身が一番怖がっている『幽霊』のことは、あまり深く考えていなかった。



 ただでさえ変な奴だと思われてるんだから、

 これくらいちゃんとやらないと、

 まともな人だと思ってもらえなくなるよ。



 助手は『あーそう頑張って』と投げやりに言いながら立ち上がり、部屋を出ていった。久方の言う『まとも』が何だか、さっぱりわからないと思いながら。



 作業が終わり、データも送り終えた頃、早紀から『今日は妙子の日です!!』というお知らせが来た。自分だけでなく、たくさんの人に送っているようだ。親の仕事の宣伝は、無意識にやっているのだろうか。自分はこのたくさんの宛先の中で、どのくらい重要な人間なのだろう?

 久方は自分の親を思い出しかけて、すぐに振り払うように頭を勢いよく振った。

 これ以上、昔の出来事に振り回されたくはない。

 ドラマの時間をチェックし、あらすじも調べてみた。主人公は無事に妙子から逃げ、昔の事件の聞き込みに行くようだ。これだけ見ると、早紀に聞いたような『もっと怖いこと』はなさそうに見えるが。

 一応助手と一緒に見た方がよさそうだ。早紀は一人で見て平気なのだろうか。


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