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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年1月

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2016.1.19 研究所


 だから、いかがわしいことをしてたわけじゃないんだって。別人は雪かき手伝って話してただけなんだって。何を勝手にエッチな想像してパニくってんだ?いくら病気の不倫女でもお前みたいなガキじゃ相手にならないだろ?何を夢見てんだ?バカか?せいぜいよその婆さんに親切にするくらいで、何も悪いことしてないって。いいかげんにしろよ昨日からもう幼稚園児じゃないんだからさあ。



 安心させるつもりが暴言を吐きまくっている助手を、久方は真っ赤な目で睨み付けていた。『ピアノ狂いの言うことなんか信用できるか!』と言いたげに。久方にとっては、別人が自分を乗っ取っている時点でそれ自体が『悪』であり、他人に親切にしようがどうしようが関係ないのだが、それが、助手や、昨日来た佐加にはなかなか伝わらない。二人とも『悪い人じゃないし、害はないからいいじゃん』という感じだが、久方にとっては有害極まりない存在だ、昔から。

 言い返そうとしたとき、早紀から着信があった。



 サキ君?



 久方は急に嬉しそうな顔をして答えた。助手は呆れつつも機会は逃さずに、早足で部屋を抜け出した。昨日からずっと同じ話の繰り返しでもううんざりだ。久方の話を聞きながらもずっと、指が勝手に動いていた。そろそろピアノを弾かないと、禁断症状がひどくなってしまう。




 妙子が主人公を監禁しまシタ。しかも、包丁を持ってマス。若い彼女は行方不明で、やはり妙子が絡んでいる可能性が高いでス。庭の木の下を見てニヤけてまシタから、埋まってるかもしれまセン。



 早紀はいきなり恐い話を始めた。母親がホラーサスペンスに出ていて、感想を聞かれるから仕方なく見ているが、



 どこもかしこも気持ち悪いでス。もっとましな役を選びなさいと私はいつも言ってるンでスよ。でも無視でス。来週はもっと恐いそうでス。



 早紀は妙子の不気味さを解説したがっていたが、久方は聞きたくなかった。恐いのは別人だけで十分だ。

 平岸あかねから自分の噂を聞いてないか、心配になったので聞いてみた。サキは、助手の妄想話以外聞いてないという。ほっとしたが、油断はできない。いっそ別人のことを話そうかと思ったが、



 所長も一度妙子を見てみてたらわかりまスよ。目がイっちゃってるストーカーなンでスよ。一瞬でも見れば私の言いたいことがわかりまス。めっちゃ不気味でス。



 ストーカーの話と同時に幽霊の話をするのはまずいと思い、今日も早紀には話せなかった。通話を終えたあともしばらく、先のことを考えて物思いに沈んでいた。自分にもいつか『めっちゃ不気味』とか言われてしまう日が来るのかもしれない。

 天井からはピアノが聴こえている。久方は沈んだ顔で二階に上がり、助手の部屋のドアをゆっくりと開き、



 妙子が男を監禁して、ライバルの彼女を殺したんだって。ピアノの音がうるさいからその仕返しに。遺体は庭の木の下に埋めた。来週はもっとひどいことになるらしいよ。



 と暗い顔でつぶやき、目が点になっている助手を背に、自分の部屋に戻っていった。


 その後、助手のピアノが再開することはなかった。


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