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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年1月

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2016.1.18 研究所



 わああああああ!!



 助手が出かけようとしたまさにそのとき、隣の久方の部屋から悲鳴が聞こえた。壁に近づくと、すすり泣く音まで聞こえる。慌てて隣の部屋に行ったが、なんと、ドアに鍵がかかっている。

 助手は珍しく恐怖を覚えた。久方がドアに鍵なんて有り得ない。別人か?でも、あの別人が泣くところなんて見たこともなければ想像もつかない。どうしたのかと聞いたら、



 やだああああああ!!!



 全くもって会話不能だ。とうとう発狂したのかもしれない。

 仕方ないので一階に降りると、なんとそこには、自分が主であるかのように悠々とコーヒーを飲みながら、宿題のドリルを丸写ししている佐加美月がいた。



 あー、おはよ。



 助手にも軽い挨拶だ。本物の所長より上司らしい。

 あまりにも堂々としているので、困った助手が何をしているか聞くと、



 宿題。

 今日の朝まで忘れててさー、

 午後イチで提出なんだけどなんか多くてさー、間に合わないかも。



 なぜここで宿題をやらなければいけないんだと聞いたら、



 だってさー、浜にいたら藤木に見つかるじゃん。ちょうど知り合いのトラックおやじが通ったから秋倉まで乗せてもらったらさーホソマユが塾やるって連絡来てさー、捕まったら大変なんだってあのホソマユ!!

 ヨギママも午前中くらい静かに寝たいだろうしさー。



 説明を聞いても何がなんだかさっぱりわからないが、午前中くらい静かに過ごしたいのは所長だって同じだろと言うと、



 あーだからさー、

 幽霊のことはもうバレてるから安心して!!

 ヨギナミがおっさん本人から聞いてさー、

 さっき所長にも言っといた。なんか仕事で部屋にこもるとか言ってたけどー。








 助手は今日、初めて、この佐加美月の真の恐ろしさを知った。

 こんな微妙な、みんなが避けて通ろうと遠回しにしている地雷を、

 ここまで簡単に踏んで平然としているとは。



 うちら、誰にも言わないよ。



 佐加が、らしくない静かな声で言った。



 うちさー、浜の学校で暴れて、追い出されて秋小に来たんだよね。病院とか相談するとこにたくさんつれてかれたけどさー、あいつら人の話聞いてるふりしてるだけじゃん。はじめからやることは決められててさー。当てはめて終わりー。

 でも誰だって、たまに変になることあるじゃん。ぶっちゃけ秋倉町民はみんな変だし。

 ヨギナミとうちで、秘密にしとくことにしたから。あかねは親友だけど、ほら、趣味がさー。



 佐加が宿題から顔を上げて、ニヤニヤ笑いを助手に向けた。



 うちは気にしてないし、ヨギナミも今まで通りだから。

 所長にもそう言っといた。




 佐加にしては優しい言い方だが、それが久方のショックを和らげたとは思えない。あとでなだめなければいけないだろう。落ち着いてからも、しばらく不安がって暗い顔で愚痴られそうだ。

 助手は増えた仕事を思ってため息をついたが、これでいいのかもしれないとも考えた。久方がいくら隠そうとしたところで、別人の存在はいつかバレる。佐加はとんでもない奴だが、悪意はない。味方は多い方がいい。






 佐加ああああああ!!!




 図体のでかい学生が飛び込んできた。佐加は素早くドリルを鞄に放り込んで、学生を避けて逃げた。その巧みさはまるで狐だと、助手は変な意味で感心した。追ってきた学生も飛び出そうとしたが、助手の前に戻り、



 本当に申し訳ありません!!



 と頭を深く下げてから、佐加と同じ勢いで外に飛び出して行った。

 助手はその行きすぎた真面目さを笑ってから、手のかかる『所長』をなだめるために二階へ向かった。


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