2016.1.17 ヨギナミの家
あいつ二重人格なんだよね。乱暴な奴は久方本人じゃないから。
そいつがまた来たら、後で何してたか教えてくれる?変なことしてたら困るし、暴れたらすぐ迎えに行くから。
携帯にかけてきた助手の営業マンのような声を聞きながら、ヨギナミは思った。
来ても黙ってようっと。
調子のいい声の主には、はい、わかりましたあとレストランでやっているように愛想よく答えた。ヨギナミは自分を偽るのに慣れていた。
だいいち、あの目付きの悪い人は、暴れたことなんて一回もない。雪かきして母と雑談して、本を読んで帰るだけだ。しかも、本人から聞いた話と、この助手の言い分は噛み合っていない。あれは二重人格ではない。古本屋の息子の幽霊で、全くの別人だ。助手はわかっていないのだろうか、それとも、どちらかが嘘をついているのか。
他の子には言いふらさないでね。あいつ人に知られるの嫌がるし、この町噂好きな奴多くて暮らしにくくなるから。
噂には、ヨギナミだって迷惑している。
通話を切ったあと、母に内容を話したら、やはり『無視しなさい』と言われた。
人の行動をよその子供に報告させるなんて、ろくな男じゃないね。
ヨギナミは、母がたまに会っている男を思い出した。全ての不幸の原因を作った男を。
たぶん目付きの悪いほうは、あれとは違うだろう。違うと思いたい。
ヨギナミは佐加に電話したが出ないので、助手が話した内容だけメールで送った。名無しの幽霊から聞いた話は、直接会ってから話そうと思った。ヨギナミ自身が、まだどう受け止めたらいいか、わからなかったから。
少し経って、こんな返信が来た。
おもしろくね!?
やっぱあの所長さみしいんじゃね?
あたし本人に電話してみようかなー。
もう知ってるから隠さなくていいって。
ヨギナミは慌てて、言いふらすなと返信した。
言わないよ。
わかるもんあたし。
あかねに知られたら道央すべての町に言いふらすしさ。
メンヘラ嫌う奴多いし。
秘密にしとこ。
佐加らしい返事が来た。




