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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年1月

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2016.1.17 サキの日記

 熱は下がったけど、まだ調子が悪い。でも、食欲は何よりも先に戻ったから、痩せない。付き人がます寿司と一緒に持ってきた海外のクッキーの缶を、毎日少しずつ食べようと思ってたのに、今日一日でなくなってしまった。明らかに糖分のとりすぎ、なんだか気分が落ち着かない。

 缶は綺麗だから何か入れようと思って、中を洗ってキッチンに置いてある。アクセサリーにしようか、衝動買いしたリップクリームとグロスを入れとこうかと部屋を見回して気づいた。

 こうやって、無駄なものがどんどん増えていくのだと。

 でも缶は綺麗だから捨てたくない。なぜお菓子の缶はこんなにかわいいのが多いんだろう。ふと思い出して母のクローゼット部屋を漁ったら、やっぱりあった。女性の横顔が入ったお菓子の缶。中身はアクセサリーで、安っぽくはないけど貴金属でもなさそうなやつ。他にも、元々はクッキーかチョコが入ってたとしか思えない缶がいくつかある。

 遺伝だ。

 私は悪くない。

 私が今、シールとか雑貨を放り込んでる箱だって、お菓子が入ってた金属の箱だ(でも、缶と呼ぶには造りがしっかりしすぎてる気がする)

 ネットでジュエリーボックスを見ても、なんだか気に入らない。

 やっぱりお菓子の缶がいい。

 でも、なぜだろう。



 やけ食いしてしまったのは、あのむかつく付き人が様子見ついでに持ってきた雑誌のせいかもしれない。表紙に母が小さく出てたから『女優が娘の熱くらいで現場から消えやがって』みたいな記事かと思ったが、違った。



『二宮由希が怪しい5つの理由』



 と書いてある。ただし本人の話ではなく、出演してるホラーサスペンスの役の話。だから正しくは『二宮由希が演じてる菊松妙子が犯人に見える5つの場面』

・物陰から主人公をいやらしい目で見つめている妙子

・主人公の彼女に不気味な声で嫌がらせ電話をする妙子

・主人公が捨てたインク切れのペンを拾って大事に持ち歩き、たまに恍惚とした顔でキスまでする妙子

・もう一人の犯人候補のダンディー髭じじいと、昔愛人関係にあったことをほのめかす妙子

・一回り年下の主人公を、見るからに年齢を間違えた若作りな服装で追い回す妙子



 かなり壊れてる人じゃないと演じられない変な役。どのシーンも、徹底的に気持ち悪い。クッキーを20枚一気食いしてしまうほどに。なのに、記事には、このやり過ぎ感が人気とか書いてある。世の中の人の美意識も、母と同じくらい壊れてるのかもしれない。だって、このイっちゃってる目付きを見たら、この世の犯罪は全部こいつの仕業だとしか思えない。


 今学校行ってなくて本当に良かった。

 絶対『妙子の娘』って言われる。


 最近母の出演作がサイコな作品ばかりになってきた。そろそろ引退したほうがいいのかもしれない。でも、あの母に他の仕事なんかできるとは思えないし、ずっと家にいられたらもっと困る。だって、りんごむく以外何もできない40代の娘なんだもん。

 自分の進路も決めてないのに、何で私がサイコママの心配をせにゃならんのだ。



 サキくん、大丈夫?



 所長からメールが来てた。



 助手が松井カフェで聞いてきた話だと、お孫さんが秋倉高校に転校してくるそうだよ。男子で、平岸さんと同い年らしいから、サキ君と同じクラスじゃないかな。



 女の子だったらよかったのに。また男子か。

 あかねが言ってたアパートに来るのも男子(しかも頭が変かもしれない)だし。

 まあ、妙子よりはマシだけど。犯人じゃなくても何でもいいから早く捕まえてほしいもん、あの人。


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