2016.1.16 ヨギナミの家
家がつぶれちゃう。
落ちてきた屋根の下敷きになって死んじゃう。
ヨギナミは不吉な考えで頭がいっぱいになっていた。夜中じゅう天気が荒れ、風の音に混じって屋根のきしむような音、雪の重みが圧迫するような音がした。眠れなかった。
考えすぎかもしれない。
でも今朝のヨギナミは焦っていた。まわりが見えなくなるくらいに。
はしごをかけ、屋根にうまく乗ったと思った瞬間、
キャアアアアア!!!
屋根の雪もろとも、下に流れ落ちた。
何やってんだこのバカ!!
雪の中でもがいていたら、怒鳴り声とともに両腕を引っ張られた。
屋根の雪降ろし一人ですんなって去年も言っただろ!?
埋まって死ぬぞこのバカ野郎!!
確かに去年も同じことを言われたが、こんなきつい声で怒鳴られたのは初めてだ。怖いほど声が大きい。
もちろんそれは久方創……ではなく、
『誰だかわかんない目付きの悪い方』だった。
あんた、誰?
自分を助け起こそうとした腕を逆につかみ、ヨギナミは相手の目を真っ直ぐに睨んだ、一瞬たりとも真実を見逃さないと決意した瞳で。いつものおとなしいヨギナミなら、こんなことは絶対しない。でも今日は、屋根に登って落ちた勢いで、少し短気になっていた。
久方さんじゃないよね?
お名前は?
ねえよ、名前なんか。
誰だかわからない人は、顔をそらした。
じゃ、名無しさん。
ヨギナミはもう一度腕をひっぱった。『名無し』はヨギナミの手を引いて、雪山から一緒に降りた。
大丈夫?
悲鳴を聞いた母親が玄関に出てきていた。ネグリジェにショールだけで。
大丈夫だから早く中入れよ。寒いだろそんな格好で。
名無しがいつもの調子で言うと、母親はすぐに中に戻った。眠れなかったのは娘と同じで、今日は調子が良くないようだ。
名無しはヨギナミから顔をそらしたまま、自分が歩いてきた足跡の向こうを見つめていた。何も話さないが、帰ろうともしない。
ヨギナミは玄関や、道に続くあたりの雪をスコップでよけながら、様子を見ていた。聞きたいことはたくさんあるが、質問した瞬間に拒否されそうな気がする。
名前は言えない。
独り言のような呟きが聞こえた。ヨギナミが振り向くと、『名無し』は泣き出しそうな目で、薄く笑っていた。こんなに悲しそうな顔を、ヨギナミは今まで見たことがなかった。
俺ん家も似たような平屋だったよ。
親父と二人で暮らしてた。
でもそれは、創にもお前らにも、
関係ない話だな。




