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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年1月

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2016.1.15 研究所


 助手は今日、帰れないそうだ。

 たまにふらっと出かけて夜中に帰ってきたり、今日のように、急用と言って飛び出したままどこかに泊まってきたりする。帰ってきても、どこで何をしてきたかは一切話さない。



 いつも女はこうだとかどうだとか言ってるから、そっち系のトラブルかもなあ。



 久方は、見知らぬ女性が昔の恨みを晴らすべく助手を袋叩きにしているところを想像して遊んでいた。あの口の悪さなら、それくらい恨まれていてもおかしくはない。もしかしたら今もつきあっている女性がいるのかもしれないが、そんなのは想像しても面白くもない。


 暗い部屋で横になりながら、スマホで天気予報を見た。明日はピアノの心配をせずに朝を過ごせる。早めに起きて、ゆっくり朝食をとって、天気が許せば外を歩こう……と思ったが、天気予報は微妙だ。ここ数日冷え込んでいて、連日雪が降っている。明日も雪かきは必要だろう。



 とにかく、明日の朝は静かに過ごせる!



 心が妙に浮き立っていた。助手のピアノがないというだけで。ささやかな幸運に浸っていた久方は、ピアノの音に文句を言えずに我慢する方が異常だということには気がつかなかった。



 今日は早く寝よう。



 明かりを消した。風の音が聞こえる。朝になったら除雪のついでに猫が無事か確かめなくては。



 どうしてかま猫は、建物の中に入るのを嫌がるんだろう?

 昔誰かにいじめられたのかな。

 きっと佐加か、仲間の学生だろうな。



 久方は佐加を思い出して顔を歪ませた。昨日またしつこく訪ねてきたからだ。しかも『所長!おい!おっさん!起きなよ!!』とうるさく叫んだうえに、ソファーまで蹴った。野蛮にも程がある。寝たふりをして上手くかわせたからいいが、早紀があれと仲良くなって一緒に来てしまったらその手は使えない。かといって『学校の女の子と仲良くなりませんように』と祈るのも何がが間違っているような気がする。早紀は新しい学校を不安がっているし……。



 まずいな、雪が多すぎる。



 誰かの低い声が、突然頭に響いた。

 久方は跳ね起きてあたりを見回し、部屋のライトをつけた。

 誰もいない。

 いるはずがない。



 嫌な予感がした。前にも似たようなことがあったからだ。助手がいないから出てこようとしているのかもしれない、もう一人が。

 眠気は完全に冴えてしまった。

 部屋を出て、一階に降りようと思ったが、足が震えた。寒さのせいだと自分に言い聞かせたが、おさまらなかった。


 階段を降りきったあたりで、

 久方創の記憶は途絶えた。


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