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早紀と所長の二年半  作者: 水島素良
2016年1月

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2016.1.15 サキの日記


 病院に行くとすごくみじめな気分になる。具合が悪いからじゃない。


 若いのがここで何してんの?たいしたことないなら家で寝てなさいよ。混んでるんだから。あんたみたいのが暇潰しに話に来るから、私たちが3時間も待たされるじゃないの。



 熱を測ったら、39度を越えていた。



 人と話すためだけに病院に行く年寄りは多いかもしれない。若いのにも。

 でもそれって、そんなにおかしいことだろうか。

 責めるんじゃなくて、他に居場所や話し相手を確保するほうが現実的だし、実際そういう場所や取り組みはある。

 さみしがる人や助けを求める人に向かって、人格攻撃を仕掛ける奴がこんなにも多いのは、自分が助けてほしいのに誰も助けてくれなかったからじゃないだろうか。でも、助けてほしいなんて口に出すのは恥ずかしいから、そういう人を見つけると攻撃せずにいられない。自分だって耐えてるんだからお前も甘えるな。



 誰もが必死に救いを求め、

 誰もがそれを認められず、

 互いを痛めつけている。



 救いのない話。



 夕方、玄関が開く音がしたから、バカかと思ったら、母だった。りんごむいてくれたけど一口しか食べれなかった。誰かから電話が来て、



 娘が熱出して寝てるって言ってるでしょっ!!



 怒鳴り始めた。頭に響くのでうめいたら、慌てて部屋から出ていったけど、わめく声はしばらく聞こえ続けていた。どうも、無断で帰ってきちゃったみたいだと思った。熱で病院に行ったことはバカにしかメールしてないのに、なぜ母が来ちゃうんだろう。仕事場ですら大人げない対応しかできない上に、りんごむく以外何もできないのに。結局、オロオロと不安そうにうろつく健康な母を、39度の熱出してる私がなだめてあげなきゃいけなくなった。視界がぐらぐらして、母の顔がぼやけて見えた。もしかしたら、母親は私の方で、この人は40代の娘なんじゃないかという気がしてきた。でも私は子供を産んだ記憶なんてない。熱が高すぎて何がなんだかわからなくなってきた。

 普通に仕事してくれてたほうが私も楽なのに。

 もしかしたら『子供が病気のときは母親がそばにいるべきだ』という妄想を誰かに吹き込まれたんだろうか。『薬もらったから大丈夫』と娘が言うのは信じないくせに、そういうくだらない間違った世の中の妄言は信じるわけだ。へえ。いいお母様ですこと!!



 熱があると、さすがに夜も眠れるらしい。

 目覚めたら午前10時。熱はまだ8度台だけど、かなり楽になった。さすがに、40代の娘はいなくなっていた。冷蔵庫にます寿司が入っていたから付き人が迎えに来たんだろう。でもなぜだ付き人め。なぜ今日もます寿司なんだ!?熱があるときにこんなもん食えるか!……と思ったら、鍋にお粥が作ってあった。テーブルに『食べたいものがあったらメール下さい』という付箋が張りつけてあった。だから何でメールじゃなくて付箋なんだ。そんなに付箋が好きなわけ?文具メーカーの宣伝?



 何を見てもムカついてかえって熱が上がりそう。なのにやっぱり考えごとは止まらない。


 寝よう。

 熱に脳細胞破壊される前に。


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